約 730,169 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/83.html
<明日の為に、其の1!> 「これ以上戦えぬ者に手を出す気はありません、再戦を楽しみにしています。」 また今日もいつものように戦闘停止を申告し、結果的にはドローになる。 8戦やって0勝0敗8分、デビューしてから毎回この調子なのだ。 どうやら自分の趣味が彼女に変な価値観を植えつけてしまったらしい。 そもそも巷で大流行の武装神姫を購入する予定は一切無かった。 仕事で散々扱ってきたのに、病気で休職中の時まで見たくなかったのが正直な感想だ。 「リハビリ兼ねて、お前のボーナスは現物支給でコレだから。」 とは上司の台詞である。 本来は開発に携わった人物がバトルサービスに関わるのは好ましくないのだが、 神姫本体では無くバトルサービスのシステム開発部である事と、 ある種の市場調査を兼ねての特例との事らしい。 その際に都合良く休職中の自分に白羽の矢が立った訳だ。 こうして、我が家にフルチューンされたストラーフがやって来たのである。 正直、戦闘用フィールドばかりを手がけた為か、何から手をつけるのかすら知らない。 名称は事前に”エスト”として登録してもらっているので、とりあえず起動? 「はじめまして、今日からよろしくお願いします師匠。」 「おう、よろしく・・・って師匠!?」 「そのように呼称設定がなされておりますが、何か問題でも?」 「いえ、面倒なのでそのままで結構でございますです。」 面倒だからと初期設定を友人に任せるのは、余計に面倒な事態を引き起こすようだ。 起動から数時間、すっかりウ○ザードやト○ーズ閣下に感化されたようだ。 闘いの美学がどうとか、エレガントにとかブツブツ言いながら武装を選定している。 上司に渡されたカタログでスペックを確認してみるが、どうやらサード程度なら武装無しでも問題無いらしい。 某シューティングの1面で上上下下左右左右BAを使うようなものだろうか。 などと馬鹿な事を考えているうちに気に入った武装を発見したようだ。 自分の2倍弱程の長槍を満足気に振り回している。 「それって懐に入られると邪魔になりそうだな。」 「甘いですね師匠、ちゃんと中心で分割されて2本の槍になります。」 「それはそれは、無知で申し訳御座いませんねー。」 「だからお前は阿呆なのだ!」 いや、それ師匠と弟子の立場が逆だから。 「で、火器の類は見当たりませんがどうすんのさ?」 「そんなエレガントじゃない武器は必要ありません。」 言っても無駄なのを理解したので、残りのパーツで飛行ユニットをでっちあげて 勝手に護身用の銃器を仕込んでおいたのは別の話だ。 こんな調子でこれからやっていけるのだろうか。 師匠と弟子
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1349.html
{文化祭って、こんなだったけ?} 「う~ん…」 「何か悩み事ですか?」 「あはっ、アニキの奴が悩んでるよ」 「欲求不満ならあたしが解消してあげましょうか?」 「お兄ちゃん…話してくれれば相談に乗りますよ」 俺が悩んでいると机に居た神姫達が寄ってきた。 嬉しい事だが、多分言っても無駄だと思う。 何故ならばとうとう来てしまったのだ、この招待券が…。 封をされていて中身が見えないけど、俺は一発で解った。 だってこの茶封筒の表紙だけで想像出来たからだ。 表紙に書かれてあった文字を読むと俺の母校だった。 そして高校だったら何処もかしこも必ず一年間に一回あるという行事。 代表的な名前で例をあげるのなら『文化祭』だな。 今日の朝、俺が新聞を取りにポストに行ったらポストの中に余計な物が一つ入っていた。 それは俺が高校生の時に通ってた我が母校の文化祭の招待券である。 こんな茶封筒をポストにブッこんだ奴は一人しかいない。 婪だ。 奴に間違いない。 何故すぐに断定が出来るか簡単な理由だ。 今年で三度目だからである。 一度目は俺もまだ高校三年生だったから行ったけど、卒業後の二度目は行ってない。 文化祭は楽しいが時間が経つにつれ、ダンダンと怠くなる感覚が嫌で嫌でどうしようもなかった。 だから二度目は行かなかった。 あの時の婪は少し可哀相だったなぁ。 俺が文化祭に来なかった事で、婪は文化祭が終わった後に俺の家に入って来て。 「え~ん!なんで、来てくれなかったのー!!」 俺に抱き着きながら泣いてしまった、という過去がある。 あの時は大変だった。 兎に角、婪を慰めようと優しく何度も頭を撫でてあげたんだっけ? まぁともかく大変だった。 今年で婪も最後の文化祭。 本来なら後輩思いの先輩として行くべきなのかもしれない。 でも行きたくないんだよなぁ。 多分、行けば婪の奴が『これがあたしの彼氏よー!』とか言いそうで…。 ほんでもって周りに居る在学の生徒達が。 『うお!?マジかよ!』とか『婪さんの彼氏だってー!』とか言われそうだ。 マジ、勘弁してほしい。 ただでさえ、俺と婪はあの学校で有名なんだから。 喧嘩屋だったこの俺と学校で一番のアイドル、婪。 学校に行けば野次馬共が来るに決まっている。 それだけはなんとか回避したい。 でも行かないと婪にまた押しかけられて泣かれるのは嫌だ。 まったくどうしてこんな事になっちまったんだ…。 「はぁ~…。どうしよう」 「ご主人様、神奈河高等学校ってご主人様が通ってた学校じゃないですか。しかも招待券つき」 「…ん?ちょっ!おま!?なに勝手に封を開けてんだよ!しかもなんで俺の母校って知ってるだ!?」 「だって、この紙に書いてありますよ」 「はぁあ!?ちょっと貸せ!」 アンジェラスから紙を取り上げるて内容を見ると。 『先輩へ。こんにちは、先輩。明日は先輩が卒業した神奈河学校の文化祭です。暇があったら来てください。といいますか、絶対来てください!じゃないとアタシ、泣いちゃいますよ。去年みたく、いいえ、更に凄い行動にでちゃいますから!!という訳で明日楽しみにしていますね。同封に招待券を入れときます。婪より』 おいおい。 ほとんど脅迫状だぞ。 これ。 「しかてねぇー…行くか」 そう言って俺は明日の外行きようの服の胸ポケットに招待券を入れてベットで寝た。 …。 ……。 ………。 翌日。 俺は愛車を運転し、我が母校に向かっていた。 勿論アンジェラス達も一緒。 空は晴天、俺の気分は極上的に斜め。 まったくどうして文化祭当日を日曜日にするかな。 魂胆は少しでも客を入れたい、そんな感じだろーよ。 「ご主人様、ご主人様」 「ん、なんだ?」 「文化祭って楽しいのですか?」 「…文化祭かぁ」 チラッとアンジェラスの方向を見るとクリナーレ、ルーナ、パルカも真剣な眼差しで俺の方を見ていた。 …あぁー、なるほど。 こいつ等はデータとして文化祭がどのようなモノか分かっていても、体験してないからイマイチ分からないかもしれない。 だから文化祭を体験済みの俺に聞いてきたんだろう。 ぶっちゃけた話し、文化祭は楽しいけど七割は怠い。 正直、つまらない&金の無駄遣い。 …俺的にはだよ、あくまでも俺的に。 だから俺の感想をストレートに言ってコイツ等の落胆した顔なんか見たくないし。 ここは少し花を持たして話すかぁ。 「楽しいぜ。飲食店なら、かき氷屋、フランクフルト屋、焼きそば屋、タコ焼き屋、わたあめ屋、じゃがバター屋。イベント系なら、お化け屋敷、占い屋、射的屋、輪投げ屋、水風船、メイド喫茶。お前等の場合、飲食店なんか一つの店だけで腹一杯になるんじゃないか?」 「楽しそうですね」 「ボク、お化け屋敷に行きたーい」 「あたしはメイド喫茶」 「私は射的と輪投げかな」 みんなそれぞれ行きたい所があるみたいだ。 う~ん、金の方は一応多めに五万円持って来たし大丈夫だろ。 おっと、学校が見えてきたぜ。 車は路駐で大丈夫かな…。 まぁそんなに長くいないからちょっとぐらいなら。 停める場所は正門近くでいいだろ。 キキィ 「よし、着いたぞ。お前等」 「「「「はい!」」」 車からおりてキーのボタンを押しロックをかける。 これでよし。 「そんじゃブラブラしま、ゴファ!?」 「センパーイ!来てくれたんですね!!嬉しいです!!!」 いきなり背中に衝撃がきた。 何が起きたかと思い振り返ると。 「なっ!?婪!」 「はーい、そうでーす!」 背中に体当たりをブチかました奴は婪だった。 …しかも黒と白のメイド服を着てるし。 まぁ婪の事だから、メイド服は予測出来た。 つーかさぁ。 「婪!テメェ、体当たりとはいい度胸してるじゃねーか!!」 「エェー!?酷いですよ、先輩!体当たりじゃなくて抱き着きです!!」 「うんな訳あるか。…お~イテー」 婪が離れたので背中を右手で摩る。 結構痛かった。 「大丈夫ですか?ご主人様」 「大丈夫だ。で、婪はこんな所で何してるんだ?服装からしてメイド喫茶だと思うけど」 「先輩を待ってるついでに呼び込みしてたの」 「呼び込みか。繁盛してるか?」 「はい!それより先輩、こんな所で立ち話もなんですから早く学校行きましょ」 「それもそうだな」 こして俺は一年ぶりの高校に来た。 …。 ……。 ………。 婪からもらった招待券を正門で受付してる人に渡し校内に入る。 学校のグラウンドには、それぞれのクラスが屋台を出し商売していた。 この頃は気楽で色々と楽しかったなぁ、と思いふける。 喧嘩ばっかやってきた俺でも、それなりにスクールライフを楽しんでいた訳だ。 俺流のな。 普通の人にはお勧めできないけどね。 まぁ、それは置いといて。 「おい、婪」 「はい?」 「いつまで俺の腕に抱きついてるつもりだ」 そう。 婪は俺の左腕に自分の右腕を絡ませて、俺の肩に婪の頭を添えるようにしている。 これじゃあ何処からどうみても恋人同士がやることだ。 因みにアンジェラスとクリナーレは俺の頭の上にいて、ルーナとパルカ右肩にいる。 しかも四人とも羨ましそうな顔して。 そして一番嫌なのは。 『男性版』 「おい、あれ見ろよ」 「あれって婪先輩だよな。男の奴は誰だ?」 「お前知らないのかよ。あの男はこの学校最悪不良学生ベスト3に入る喧嘩屋の人だよ」 「マジかよ!?でも何で婪先輩はそんな男に抱きついてるんだ?」 「なんでも、あの男と婪先輩は幼馴染らしいよ。唯一暴力や暴言を振るわれない、と聞くぜ」 「えぇー!?じゃあ男の婪先輩と付き合ってるということは!?」 「バカ!声が大きい!!」 「ワッ、ごめん!…でも、婪先輩のファン倶楽部が黙っちゃいないじゃないか?」 「多分な。もし酷い事になったら血の雨が降るぞ」 「俺、この事を他の友達に知らせてくる!」 「おう、任せたぞ!」 『女性版』 「ねぇねぇ、あれ見てよ」 「あの人ってうちの学校の一番アイドルの婪先輩じゃない」 「よく見てよ」 「よく?…キャー!婪先輩が物凄い嬉しそうな顔で男の人に抱きついてる!!」 「そうなのよ。しかも相手の男の人はここの卒業生らしいよ」 「うちらの学校の卒業生?マジで??」 「マジよ。しかも噂じゃー相当なワルって聞いてるわ」 「じゃあ婪先輩の好きな人って不良系の人が好きなの!?」 「違うわよ。あの人とは幼馴染らしいのよ」 「幼馴染…ねぇ。それまた凄い話ね」 「でも婪先輩って男の人じゃん。だからー…」 「もしかして…ホモ?」 「可能性はあるわね」 「キャー、どうしよー!これはスクープよ!!皆に知らせてくるわね!!!」 「うん!頼むよ!!」 などなど、そこらじゅうで飛び交う会話が俺の耳にバンバン入ってくる。 マジでイラつく。 ここにいる奴等を全員シめてやろうか。 いや、それは駄目だ。 折角の文化祭に期待を膨らまして楽しもうとしている四人の神姫達や婪がいるんだ。 俺の勝手な行動でこいつ等の思い出をブチ壊すのは回避したい。 ここは我慢だ、俺! 「なぁ婪。まずこいつ等に文化祭がどのようなものか教えてやりたいんだ。だから少し時間くれるか?」 「別にいいですよ。それに先輩の頼みごとですし、断るわけないじゃないですか」 「サンキュー」 「でも、この腕は離しませんよ」 …マジですか。 はぁーまぁいいや。 「アンジェラス、クリナーレ、ルーナ、パルカ。何やりたい?金はそれなりに持って来たから、この学校でやっている店はほぼ全部出来るぞ」 「私はいいです」 「ボク、お化け屋敷に行きたーい」 「あたしは婪様のメイド喫茶」 「私は射的と輪投げ」 「そういえば車の中でそんな事言ってたな。そんじゃ行くか」 こうして俺はこいつ等の言う通りに目的の場所に向かった。 まずはクリナーレのお化け屋敷。 店内に入り、少し歩いたら。 「うらめしや~」 まぁ、いつもどうりの展開でオバケが出てくるのだが。 「はぁあ?なんだお前??殴られたいの!?」 ボカ! …あのさぁ、クリナーレ。 『殴られたいの』と言っといて殴るのは人として…神姫としてどうかと思うぞ。 そんな感じで店内を歩くにつれ怪我人が続出させたクリナーレは入場不可という事になった。 当たり前だ。 因みに本人の感想は『結構楽しかったよ。また来たいなぁ』だってさぁ~。 どうせ人を殴る事が出来たからだろうよ。 次はパルカの射的と輪投げ。 神姫だから人間サイズの銃を持つ事が出来なくて、補助係として俺が片手で持って照準と引き金はパルカがやることになった。 「お兄ちゃん、ちょっと銃身を下に下げて」 「こうか?」 「そこでストップ!う~んこの角度じゃあまだいまいちです。お兄ちゃん、今度は右に7度傾けて」 こんな風に誘導されながら俺はパルカの指示に従った。 そしてパルカ的にはベストポジションが決まったのか、引き金に腕を伸ばして。 バン! 撃った。 弾は見事に景品に命中したが倒れはしなかった。 まぁ大抵倒れないように景品を押さえるつっかえ棒とかあるに決まっている。 そこで景品が倒れない事にパルカが。 「やっぱりこんな銃じゃ駄目です。ここは自前で持ってきた銃で…」 「ゲッ!?パルカ、お前いつのまにそんな物持ってきたんだよ!」 「エーイ!」 バン! ボーン! …景品はボロボロに吹っ飛び跡形も無くなった。 当たり前だ。 違法改造武器の銃で撃ったのだから。 パルカは景品を破壊した事によって『お兄ちゃんー!ごめんなさーい!!』と泣きながら胸に飛び込みワンワンと泣いてしまった。 俺はパルカを慰めた後に射的屋をやっている生徒達に『景品の値段はいくらだ?』と聞き、それ相応の値段を払った。 射的屋の事件は丸く収まったが、このままじゃあパルカの思い出が悲しい思い出になっちまう。 だから俺は輪投げ屋に連れて行きパルカにやらした。 最初は元気が無いパルカだったが、輪投げをやっているうちに楽しくなってきたのか。 最後は笑って『楽しかったです』と言ってくれた。 これならいい思い出になったろう。 そして次はルーナの番なのだが…。 …。 ……。 ………。 「先輩、早く入りましょ~よ」 「う~んでもなぁ」 「ダーリン、行きましょう」 婪が俺の左腕を引っ張り、ルーナが右腕を引っ張る。 行きたくない訳じゃないんだが、なーんか嫌な予感がしてどうしようもないんだよなぁ。 こ~…、なんて言えばいいかな? 背筋に悪寒が走る? こんな感じに言えば伝わるかな。 いや、伝わりにくいだろうな。 「解ったから、引っ張るなって!HA☆NA☆SE!!」 グイグイ、と俺の両腕を引っ張る婪とルーナ。 肩にいるパルカや頭に上に乗ってるクリナーレとアンジェラスは羨ましそうな顔つきで俺を見ている。 そんな顔をしていないで、少しは助けてほしい。 こうして俺は二人によってメイド喫茶の教室に入る事になってしまった。 「「「「「お帰りなさいませ、ご主人様!!!!!」」」」」 婪と同じ服を着たメイドがお出迎えしてくれた。 …よかった、婪みたいな男女みたいな奴等じゃなくて、ちゃんとした女の子達だった。 「キャー!天薙先輩じゃないですか!!しかも愛しの婪ちゃんと腕を絡めさせちゃって!!!」 「ホントだー!結婚式はいつですか!?」 「もしかして、もうヤっちゃっいました?」 こっ!? こいつ等! なんて事を口走りやがる! これは早く弁解しないと! 「結婚式はアタシが学校を卒業してから。エッチなことは多少やったけど本番はまだヤってないかなぁ」 ちょと待てー!? 誤解を招く発言をするなー! 「ち、違う!俺と婪はただの幼馴染で先輩後輩の関係だ!!エッチもしていない!!!」 すぐに弁解したが、時既に遅し。 メイド達は俺と婪の関係で持ちきりだった。 この女達も婪つながりで俺が三年生の時に何度か会ったことがあるので、俺のことを知っている。 婪のクラスメートだったな、確か。 こいつ等が一年生の時は俺にビビっていたのに、すっかり俺と婪の関係を知ってらこんな調子でビビる所か、すっかりBL話に花を咲かすようになってしまった。 あぁ~…俺の威厳がぁ~崩れてゆく~…。 「さぁ先輩はあちらの席でゆっくりしていてくださいね。アタシは仕事に戻るので。ルーナちゃんも先輩と同じ席ね」 「は~い」 「…はぁ~、解かったよ」 婪は俺から離れ、笑顔のまま仕事場の方に行く。 そしてクラス女子と一緒にワキャワキャと話す。 内容は…。 いや、ここは聞かない方がいいかもしれない。 多分、俺と婪の関係の話に決まっているからだ。 「ダーリン」 「ん?あ、ワリィワリィ」 ダラダラの状態で婪が指定した席に座る。 あ~ダリィ~。 ヒソヒソ ん? なにやら他の席に座ってる奴等からヒソヒソ話が聞こえるぞ。 ちょっと耳をすまして聞いてみるか。 『男性版』 「あれがあの喧嘩屋の天薙だってよ」 「ほんとかぁ~?なんだかえらく噂と違うぞ」 「でももう一つの噂は本当みたいだったな」 「もう一つの噂?」 「なんでも、この学校の一番のアイドル、婪の彼氏らしいぜ」 「マジかよ」 『女性版』 「婪さんと何処までいったのかしら?」 「さぁ?でもかなり良い所までいったらしいよ」 「どこまで?聞かせて~」 「一緒にベットで寝た所まで、という所まで聞いたわ」 「キャ~、婪さん大胆!」 …あ~、もういいです。 勝手にそっち系の話で盛り上がってください。 ここまで噂が広まってるのなら、怒る気力もなくなる。 「御待たせしました、ご主人様。ご注文をどうぞ」 満面の営業スマイルで注文をとりにきた婪。 仕事は真面目にやってるつもりだな。 俺は婪が置いたお冷を飲みながら品物が載っているメニュー見ようとした。 「今ならご主人様だけ、特別にアタシの身体を使った御奉仕つきですが。どうしますか?」 「ブゥー!?!?」 「ヤダー、ダーリン汚い~」 婪の衝撃の言葉に思わず口に含んだ水を吐き出す。 そしたらすぐに婪が持っていた、おしぼりで俺が吐き出した水を素早く拭く。 前言撤回! 真面目に働いていねぇー! 「…俺はコーラとルーナにバナナパヘェを頼む」 「はい、畏まりました。コーラとバナナパヘェ!藍!!錬!!!」 「「はーい!」」 二人の若い女の子の声が聞こえた。 すると。 「な!?武装神姫!?!?」 そう。 コーラとバナナパヘェを持って来たのは犬型ハウリンと猫型マオチャオだったのだ。 犬型ハウリンはコーラを、猫型マオチャオはバナナパヘェを持ってきて、婪に渡した。 「ご注文の品です、ご主人様」 「…あ、おう」 「どうですか、ご主人様?アタシの可愛い武装神姫達は」 「アタシのって…お前の武装神姫なのか!?」 「はい、前にも話したようにアタシも武装神姫をやっているんです。ご主人様が始める前にね」 マジかよ。 いや、そういえば前の朝に俺を起こしに来た時に言ってたなぁ。 そうか、あれが婪の神姫。 俺は犬型ハウリンの方を指で摘みマジマジと見てみた。 「何処触ってるのよ!エッチ!!」 ボグ! 「アガッ!?」 右頬に蹴りを決められた。 神姫のくせに喧嘩売られた!? 「こら、藍!アタシの先輩になって事するの!!」 「で、でもマスター。こいつ、私の胸を掴んで」 「まぁ!なんて羨ましい!!先輩、アタシの胸も掴んで!!!」 「ダーリン、あたしも~」 …もう何が何やら。 婪の神姫からは蹴りをもらうは、婪の奴は浮かれてるし、教室の中や外は野次馬で凄い人数でいるし。 なんかドッと疲れたなぁ。 つか、帰りたい。 …。 ……。 ………。 「もう帰っちゃうんですか?先輩??」 「あぁ。今日はそれなりに楽しめたからなぁ」 あれからメイド喫茶は凄い事になっていた。 内容は口にしない。 ていうか言いたくない、断じて。 俺の愚痴が原稿用紙100枚分に相当するからだ。 そして今は外に出ていて愛車の目の前に居る。 今日は、大半は楽しいというより疲れる事が多かったけど。 まぁ、これはこれでヨシとしよう。 「もうちょっと遊んでいけばいいのに」 「そうしたいのは山々なんだけどな」 俺は右手の親指である方向を示した。 「正門がどうかしたの?」 「テメェの目玉は節穴か?あの野次馬がウザイから帰る理由でもある」 婪は正門の方をよく見ると少し苦笑いした。 俺と婪の事が気になって追いかけて来た野次馬達がいっぱいだ。 「…あはは。確かにアレはちょっと」 「だろ。それにこいつらも遊び過ぎて寝ちゃったし」 俺の頭の上で寝るクリナーレとパルカ。 肩にはルーナを背中におぶっているアンジェラス。 アンジェラスの奴は殆ど遊んでおらず、ただ見ているだけの事が多かったため元気はまだありそうだ。 「そんじゃーな。次はバトルでもしようぜ」 「先輩のエッチ!」 「はぁっ?」 「ベットの上でアタシと先輩が激しくバトルエッチするんなんて!過激です~!!」 「…頼むからそうい発言は控えてくれ。萎えるし…だいたい俺は武装神姫のバトルの方を言ったんだ」 「あれ、そうなの?」 「そうなの!はぁ~、疲れた。じゃあ、俺は帰るぜ」 「来年は一緒にお客さんとして行こうね!」 「はいはい。またな」 そう言って俺は愛車に乗り込み家に向かって愛車を走らせた。 …。 ……。 ………。 後部座席にクリナーレ、ルーナ、パルカを落ちないように置いて寝かしている。 今日は、はしゃいでいたからなぁ。 グッスリ寝ていやがる。 アンジェラスの奴は俺の頭の上で仰向けになって鼻歌を歌ってた。 機嫌や気分はいいみたいだ。 あ、でもなぁ。 愛車を走らせてる時にふと思った。 そう言えばアンジェラスの奴は文化祭を満足したのだろうか? クリナーレ達や婪に付き纏われて、全然気づいてやれなかった。 ちょっと訊いてみるか。 「なぁ、アンジェラス」 「なんですか?」 「今日、文化祭に来て楽しかったか?お前は奴等に付き合わされて、あんまり遊んでなかったような気がするけど」 核心をストレートに訊いてみた。 ちょっとマズかったかなぁ? 「楽しかったです。ご主人様や婪様にクリナーレ達が陽気に遊んでる光景を見ていて飽きないです」 「う~ん、その『飽きない』発言はちょっと傷つくなぁ」 「大丈夫ですよ。それに私はご主人様と一緒に文化祭に行けた事がなによりも、楽しくて嬉しかったんです」 「…そうか。嬉しい事を言ってくれるじゃないか」 「アンッ!ご主人様、くすぐったいです♪」 俺はハンドルから左手を離してアンジェラスの背中を手の平全体で撫でる。 よかった。 アンジェラスは文化祭を楽しんでくれて。 この武装神姫のアルバイトの終わる期間がいつになるか解からないけど、それまでこいつ等に楽しい思い出沢山作ってやりたいと思った。
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1831.html
鋼の心 ~Eisen Herz~ インターミッション05:CSC(その2) 「う~す、おっはー」 陽気な挨拶と共に芹沢九十九が現れた。 「……また来た……」 「やほ」 「……やほ」 渋い顔をする京子の横で、真紀が無表情にその手を挙げる。 「随分普通に戻ってきたね、真紀ちゃん」 「おかげさまで……」 変人ではあるが、同時に恩人でもある。 京子も芹沢には強く出られなかった。 「……大学の教授なんでしょう? こんなに足繁く病院に来ている暇があるんですか?」 「いや~、それがね。最近はケモテックで顧問技術者をやっているから、授業なんか全部人任せ」 「……ダメな大人」 京子が溜息を吐く。 「そう言えば、この間真紀ちゃんにお願いされた物、手に入れてきたよ~」 「真紀が?」 「うん、MMSの基礎資料見せたら、『これが欲しい』って」 「……真紀に変なもの見せてるんじゃ無いでしょうね?」 どういう訳か、真紀は芹沢に懐いているようで、芹沢の影響を強く受けているようだった。 何時だったか、猫耳と犬耳について真剣に議論していたことがあるのを思い出し、京子は頭を抱える。 「……で、何を持ってきたの?」 「試作品のMMS素体と、結晶記憶体とか、後よく分からないものが数点じゃのぅ」 「そんなの持ち出して良いの? 企業秘密とかあるんでしょう?」 「いいのいいの。隠してこっそり研究するより、真紀ちゃんの柔軟な発想にインスピレーションを得ることの方が大切なのじゃよん」 「……」 「……後は、前の脳波データ……」 「あいよ、言われたとおりに処理して持ってきた。……でも、こんな重複しまくってるデータで何するの?」 「……適応放散」 「???」 真紀の言葉が理解できなかったのは芹沢も同じのようで、彼はその日そのまま帰った。 その後、芹沢の去った病室で、真紀が一心にMMSと繋いだパソコンを弄っているのが、強く印象に残っていた。 ◆ それは、神姫の産声。 ―――それが、神姫の産声。 ◆ 「始めまして、芹沢教授」 「……」 芹沢が息を呑む。 「私は、MMSオートマトン。名前は―――」 流麗な自己紹介をする“彼女”は、人間ではなかった。 「……そんな、事が……」 呆然と、それを見る芹沢。 芹沢の心境は心の欠けた真紀には分からない。 京子がそれを知るには、芹沢と同じだけの時を生きる必要があるだろう。 真紀の膝の上の“彼女”は、身長15cmのロボットだった。 それは、後に武装神姫と呼ばれる事になる最初の一人。 そして、5年後の天海において、『幽霊』の名で語られる最強の“神姫”だった。 ◆ 誰が悪い訳でもない。 そう言う意味では、彼女の敵は世界そのものだったのかもしれない。 ◆ 「……凄い結果だよ、身体性能も思考性能もこちらの想定を遥かに上回っている」 KemotechとFrontLineが共同で設立したMMSの開発室、その一室で芹沢が“彼女”のデータの解析結果を纏めていた。 「特に思考関連は凄いね。……チューリングに完全に対応できるAIなんて100年は出来ないと思っていたよ」 「……凄い?」 「凄いとも。いや、凄すぎるよ。コレはもう人間の道具じゃない。人類の新しいパートナーになるかもしれないよ」 「……パートナー?」 「うん、人間の新しい友達だね」 「……友達」 そう呟く真紀の顔は相変わらずの無表情のまま。 だがしかし、心なしか嬉しそうにも見え、京子は視線を外す。 (……芹沢さんが、真紀を……) 妹の心を解き放って行くのが自分ではない事に、京子は少なからず疎外感を覚えていた。 「……あの、芹沢さん。これは?」 彷徨わせていた視界の隅に、一振りの剣を見つけ、京子はそれを芹沢に問う。 なぜならばそれは、人の為の剣ではなく、明らかにMMSの為の剣であったからだ。 「ああ、それか。フロントラインの方からね、MMSに戦闘をさせる企画が来て、その試作品だよ」 「……」 よく見れば剣の他にも、銃などの武器が幾つも置かれている。 「……?」 その一つ、一番大きな塊を手にしてみるが、何なのかよく分からない。 「……それ、レーザー砲なんだってさ」 呆れたように溜息を吐く芹沢。 「……最も、出力もたいした事無い癖に大きすぎて、到底使い物にはならないみたいだけどね……」 「……」 確かに、触媒のルビーレンズもサイズと想定出力の相違を調整されておらず、放電管の造りも粗雑過ぎる。 内部の反射鏡も無駄に大きな構造で、重量と収納の無駄遣いも良い所だ。 これでは大した威力も射程も無いレーザー数発の射撃で、根本から破損する事は誰の目にも明らかだろう。 「…………ん~」 「興味ある? なんならそれ、上げても良いよ」 「……いいの?」 「どうせサンプルとしてもらったものだし、肝心のMMSがこんな性能を出したんだ。今までの想定で作った武器なんてもうゴミだよ」 「……」 頭の中で青地図ができる。 (触媒の構造を多重構造にして、反射鏡の透過率を変更。あとは屈折率の最大効率を計算しなおして……) 京子の頭の中でレーザー砲を称した鉄塊が、大きくその姿を変えてゆく。 より軽く、より強く。 それが、京子にしか出来ないことなのだと、彼女自身が知るのはまだまだ先の事。 ◆ そして、それは彼女達の運命を変えてゆく……。 インターミッション06:武装神姫につづく 鋼の心 ~Eisen Herz~へ戻る 作中で触れているチューリングテストについて少々捕捉。 チューリングテストとはチューリング博士によって提唱されたAIに対するテストです。 チャットなどでAIに対して質問をし、その回答を人間(テスト官)が吟味し、AIか人間かを判断するというもの。 テスト官は自由に質問を行ってよく、AIは可能な限り人間に近い返答をすると言うもの。 この際、AIはわざと時間をかける、間違える、などをして人間を装うことも許される。 幾つか反論も出たが、作中の(そして皆様の想像する)神姫はこの反論すら許さぬほどに完璧なAIを備えている。 ここまで来るともう、相手がAIか人かを判断する意味は無いと思う。 ◆ AC4fA、今もプレイ中。 アセンしているだけで数時間潰れる。 でも幸せ。 相変わらずビジュアル重視の重AC。 ARGYROS/H EKHAZAR-CORE SOLDNER-G8A SOLDNER-G8L FLUORITE EB-R500 MUSSELSHELL OGOTO MUSSELSHELL(肩) はい、お分かりですね。 性能なんて何処か遠くの空の彼方です。 でもそれで良い。 夢はコイツで全てのハードミッションをSクリア。 ……無理か? ALCでした。
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/466.html
ただでさえ憂鬱な期末試験は、予想通り散々な結果で終わった。僕――星野慎一は、今すぐにでも抹殺したい成績表を持って、家路についていた。 いつからだろう、こんな風になったのは。 昔――といっても数年前だけど――は、決して勉強は苦手ではなかった。学校でも、それなりに友達付き合いがあって、楽しかった。 父が、罪を犯すまでは。 ほんの些細な行き違いから口論になって、相手は父を殴りつけてきた。危険を感じた父は、そこにあった大きな灰皿で、相手の頭を殴打して・・・・・・、殺してしまったらしい。 目撃者が居なかったのが、父にとっての不幸だった。正当防衛ということだったが、近辺では、あることないこと、大小さまざまな噂が飛び交った。・・・・・・その火の粉は、僕達家族にも及んだ。 逃げるように、住み慣れた地を後にした。僕は現在、祖父母の所で暮らしている。 なるべく人の通らないような裏道を歩く。とにかく、人付き合いが恐かった。殺人者の息子だとばれるのが恐かった。 「た・・・・・・す、け・・・・・・」 「えっ?」 なんだ? どこかから、声が聞こえた。慌てて周りを見渡すが、誰も居ない。 「助、け、て・・・・・・」 まただ。怪奇現象かとも思ったが、違った。 僕の足元に、15センチほどの青い髪の少女がいた。・・・・・・我ながら、変な形容だと思う。 そうだ、思い出した。最近色々と話題になっている、武装神姫。でも、そんなのがどうしてここに? 「助けて、くだ、さい・・・・・・」 その時僕は、なぜかこの娘を助ける気になっていた。今にして思えば、彼女が人じゃないから・・・・・・。そんな考えも働いていたのかも知れない。 「ありがとうございました・・・・・・」 彼女は僕の机の上でそう言った。よく見ると、身体には無数の傷がある。 「うん・・・・・・、あ、僕は星野慎一。えっと・・・・・・、とりあえず、よろしく」 「慎一・・・・・・様。私は悪魔型MMSタイプ『ストラーフ』、個体名ネロ、と申します」 ・・・・・・なんて呼べばいいんだろう? 聞いてみたところ、 「ネロ、で結構です、慎一様」 とのことだった。それにしても、 「様付けってのはなんかちょっと照れくさいなあ・・・・・・。僕のことも慎一でいいよ」 これが、僕の運命を大きく変える出会いだった。 幻の物語トップへ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2779.html
与太話12 : 人間になるには 注意! TVアニメ武装神姫、第七話(と次回予告)のネタバレを盛大に含みます。 もう一度言いますが、 TVアニメ武装神姫、第七話(と次回予告)のネタバレを盛大に含みます。 紳士皆様方、おはようございます。 アニメを見終えた直後の方々はおやすみなさい。 ホノカです。 簡単に自己紹介をしますと、私は髪の長い飛鳥型です。 主武装の機関砲『セイブドマイスター』(今は訳あって故障中)をそのまま通名として、ご近所ではそれなりに有名だったりします。 つい最近など非公式ファンクラブが作られ、自らの手で壊滅させたりもしました。 ちょっぴりお茶目かもしれません。てへ。 私は今、七人の神姫を倒すミッションに挑戦中です。 それというのもホノカさんは難儀なことに、友人のアルトレーネ・ハルヴァヤのマスターに恋をしてしまい、人間に生まれ変わってその方にアタックしようとしているのです。 その人間に生まれ変わるために必要なことが、七人の神姫を倒すこと。 なにせ機械仕掛けの人形が人間になるわけですから、そりゃあもう、倒すべき七人の神姫は普通に戦って勝てる相手ではありません。 しかし、すべては私の願いを成就させるため。 西へ東へと走り回り、現在は三人までを倒すことに成功しています。 ― 一人目 ――――― 『13km』 鷲型ラプティアス エアドミナンス 清水研究室第三デスク長 ギン ――――――――――― ― 二人目 ――――― 『大魔法少女』 蝶型シュメッターリング アリベ および 『爆裂チャイナガール』 テンタクルス型マリーセレス レイ ――――――――――― ― 三人目 ――――― 『マッドサイエンキャット』 もとい 『クソ猫』 猫型マオチャオ カグラ ――――――――――― お世辞にも美しい勝利とは言えない戦いばかりでしたが、ようやく次の四人目で半分を超えたことになります。 人間としての生を受けるまで、もうひと踏ん張り。 そろそろハルのマスターへアタックする方法を考えておいたほうがよいかも……いえ、まだ焦ってはなりません。 なにせ試練というものは往々にして、後になればなるほど過酷になってゆくものですから。 あとたったの四人。 されど、あまりに分厚い四枚の壁。 本当に気を引き締めなければならないのは、これからです。 ところで、七人の神姫を倒したところで、どうして人間になれるのでしょうか? それは、神様が私に試練を課すことの対価だそうです。 神様です。 いわゆるゴッド、いえ見た目は女性なのでガッデスです。 自分のことを神様と名乗るくせに、見た目はごくごく普通のオールベルン。 ちょっと普通と違うところといえば、表情が人を小馬鹿にしたような感じであること。 今も私の正面で、私を小馬鹿にするようにニヤニヤとしています。 私が両手を伸ばして首をしめているのにです。 ◆――――◆ 「ねえあんた、今のアニメ見てたわよね」 ありったけの握力で首をしめているのですが、神様の表情は涼し気ですらあります。 涼し気に私を小馬鹿にしています。 「一緒にポップコーン食べてたじゃないか。しかし科学の力はすごいな。神姫が地縛霊すらマスターとして受け入れるんだぜ。充電にかかる電気代とかどうするんだろうな」と言った神様は空になったポップコーンの容器をポイと放り投げました。 神様は唐突に姿を消したりするので、ゴミを片付けるのは私になります。 首にかけた両手によりいっそうの力を込めました。 「どうでもいいわんなこと。それより次回予告も見たわよね」 「ん? ああ、ハゲヅラかぶったレーネな。あれで戦乙女を名乗るんだから笑わせるぜ」 「そっちじゃないわよ! アンが人間になってマスターとデートすんのよ!? 人間になって! 簡単に人間になってんじゃん!」 「そうらしいな。やっぱりアーンヴァルが優遇されるな」 「そっちでもないわ!」と神様の首をガックンガックン揺さぶりましたが、まったくこたえた様子はなく、私を嘲るように口角を釣り上げるオールベルン。 憎たらしいったらありゃしない。 「なんであんな簡単に人間になってんのよ! 私の今までの苦労は何!? あんた騙してたのね!」 「アニメの作り話だろ、真に受けるなよ。それに次回予告は思わせぶりなことしか言ってなかったじゃないか。そうカッカせずに来週の放送を待てよ」 「来週、本当に簡単に人間になってたらどーすんのよ」 「君の今までの苦労は水の泡だな。大丈夫、落ち込んだ君を僕が指さして笑ってやるぜ」 私は反射的にみぞおち辺りにキックを繰り出しました。 しかし神様は私の手からスルリと抜け出し、私の足は空を切りました。 「まあ落ち着けって。仮に来週の放送でアンが人間になったとしても、そりゃあ限定的なものだと思うぜ。考えてもみろよ、MMSは身長15cm程度だから存在を許されてるんだぜ。医療やらキャビンアテンダントやらで働くのなら人間サイズがいいに決まってるのに、アニメにそんな描写はない。ネタ潰しは嫌いだからアンが人間になれる理由については触れないけど――とにかくだ。君が求めている『人間』とアニメに出てくる『人間になった神姫』はまったくの別物だ。それは神様である僕が保証する」 「あんたに保証されてもねぇ……」 でも神様の言ってることは理解できました。 神姫がホイそれと人間になれるのなら、それはクローン人間と同じくらい難しい倫理的な問題が出てくる(人口AIがある時点でアレだけど……)。 そして私が求めているのは、CSCではなく心臓が体の隅々まで血液を送り続け、時間と共に歳を重ねていく人間――つまり魂を持った人生です。 深く考えれば考えるほど思考の迷路から抜け出せなくなってしまう問題。 それがたった30分のアニメに詰め込まれるとは思えません。 「理解できたかい? じゃあ僕は帰って寝る。君も四人目の対戦相手のために夜更かししてないで英気を養っておけよ」 そう言って神様は部屋の窓から暗闇へ出ていきました。 モニターを消し、暗い部屋はブタマスターのいびきだけが響いています。 私がハルヴァヤと一緒にあの人の手に渡っていたら今頃どれだけ幸せだったか。 そんな考えるだけ虚しくなる妄想を振り払えないまま、私はクレイドルに横になりました。 オールベルンを蹂躙する夢が見られますように。 おやすみなさい。 やはり忍者型といえば初期フブッホなのでしょうね。 弐型は見た目からして何がモチーフなのか分からなくなってしまってますし、このまま黒歴史に……。 ところがどっこい、弐型は組み換えによって驚異的にスタイリッシュになります。 一見してパーツ数が少ないように見えますが、組み換えていくうちにその汎用性の高さに驚かされることでしょう。 取説の見本をガン無視することで、彼女達は想像を超えるほど輝きます。 是非お試しあれ。 15cm程度の死闘トップへ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/363.html
前へ 先頭ページへ 畜生…。 畜生! 畜生!! 「畜生ッ!!!」 あの青瓢箪ッ! アタシの無敗記録に泥塗りやがって!! 絶対に、絶対に許さない……! 彼女はバーチャル・バトルマシーンの中から主人へと、思わず声をかけた。 「ご主人様……」 ハウリン型MMS、主から授かった名前は”トロンベ”。 ドイツ語で竜巻という意味だ。 「……何よ、まだ終わっていないじゃない。早く全部壊しなさいよ!」 「…了解しました、ご主人様」 とても少女のものとは思えない刺々しく、荒々しい言葉に視線を落として短く応えた。 0と1の信号の上に築かれた仮想現実の世界。 低く唸る用途不明の機械や、緑色の液体が充満するカプセルが密集する施設内部。 フィールド名”秘密工場”。 薄暗い工場に灯る明かりは赤と黄色のランプと天窓から差し込むか細い光。 そして、マズルフラッシュと爆炎のみ。 ハウリン型の基本武装は十手、棘輪そして吠莱・壱式とプチマスィーンズの四種。 近接型のストラーフ型やマオチャオ型、射撃型のアーンヴァルとは違ってそれなりに万能である。 アーマーも防御力を上げつつも機動性を殺しておらず、MMSの中でも汎用性が高いといえる。 その為、初心者であってもそれなりに勝ち進めるのがハウリン型の利点である。 一方で一点飛び抜けたものが無いのも事実。 よって、ハウリン型のオーナーはある程度実戦をこなすと一点に特化した装備に変更する傾向にある。 もちろん、水野アリカとこのトロンベも例外ではない。 アリカは”大出力・大火力を基に短期決着”のスタイルを選んだ。 その為に今のトロンベはデフォルトと程遠いものと成り果てている。 アーマー類はデフォルトと同一。 しかし、両腕にはGEモデルLC3レーザーライフルを三つ三つで計六門 腰から脚にかけてハイパーエレクトロマグネティックランチャーを四つずつで計八門 背中には吠莱・壱式を四門備え、全身のありとあらゆる部位に大中小のミサイルを無数に装備。 その見た目は、歩く砲台といった感じである。 ハウリン型の機動性を完全に殺し、射撃性能に特化した装備。 全てはあのストラーフに打ち勝つ為に。 ただ、それだけの為に。 トロンベは非情にゆったりとした歩みで薄暗い工場内を徘徊している。 現在のトレーニング・メニューは百人斬り。 即ち、100体のCPUMMSを撃破するまで終わらないトレーニングである。 現在撃破数は69体。 その間にトロンベが負った傷は極僅か。 致命傷は一つも無く、全て掠り傷程度である。 薄暗い工場に閃光が瞬く。 トロンベの、ちょうど真上から奇襲を仕掛けてきたマオチャオ。 しかしトロンベは慌てる事無く背中の蓬莱・壱式上に向けて、放った。 マオチャオがハウリンに到達するよりも速く、弾丸はマオチャオを貫いた。 四発の銃撃を胴体に受けたマオチャオはデータの塵へと化す。 完全に消え去るのを見届け、ゆっくりと歩み始めた。 「26分54秒……」 アリカはコツコツとディスプレイを指先で叩きながら呟いた。 「遅い」 「申し訳ありません…」 トロンベは主人の刺々しい視線を受け、深く頭を下げた。 「謝ったからってどうなるモンでも無いでしょう! 何でもっと上手く戦えないの!? あのストラーフだったらもっと速く終わってたわ! アンタはアレに勝たなきゃいけないのよ!?」 ヒステリックに叫ぶ主人に、トロンベはただ黙って頭を下げることしか出来なかった。 「いらっしゃいませー……って倉内君か。珍しいね、ウチに来るなんて」 「客に向かって珍しいとはなんですか」 「ははは、だって君はパーツとか自分で作っちゃうし、修理も大学で出来ちゃうでしょう?だから珍しいなぁ~、てね」 「まあ、用があるのは俺じゃなくて相棒の方なんですけどね」 「ああ、成る程ね」 ここは”ホビーショップ・エルゴ” 俺が今軽い雑談を交わしたのが店長の日暮 夏彦さん。 何年か前に親父さんの遺した模型店を神姫向けのホビーショップに転向して頑張っているらしい。 このホビーショップ・エルゴはそれなりに名の通ったショップでもある。 その理由の一つは品揃えの良さ。 個人経営の利点を活かした高品質・低価格でありながら武装・衣装を問わない品揃えの良さは大手ショップと同等だ。 その他にも店長の人柄の良さや大型バトルスペールなど。 それらの事からかなりレベルの高いショップだと言える。 「お久しぶりです、うさ大明神様」 「はい、お久しぶりです。ナルさん」 そして、忘れちゃいけないこのショップの目玉。 それが”うさ大明神様”と呼ばれるヴォッフェバニー型MMSだ。 彼女は何と言うか、とても個性的な出で立ちをしている。 頭は普通のMMSと変わらないのだが、身体が無いのだ。 というか、胸像? 本来EXウエポンセットに付属するヘッドパーツの彼女には、ディスプレイ用の胸像パーツが付属している。 彼女はその胸像のままなのだ。 しかも、店内に備え付けられた1/12スケールの教室、その教壇に備え付けられたハコ馬の上に。 その様子は正にシュール。 そして、このシュールなうさ大明神様が催す”神姫の学校”こそが、このショップの目玉である。 元を辿れば店長の学生時代に遡ると言うが、詳しい事は知らない。 俺が知っている事は、小学生などの学校に神姫を伴えないオーナーに代わっての神姫預かり、人間社会の勉強サービス。 そしてその神姫の学校が大人気で、俺の相棒もそのファンであるということだけだ。 もっともナルは別に授業を受けに来た訳でなく、戦闘のアドバイスを聞きに来たのだ。 うさ大明神様は教育だけでなく、戦闘についての知識も豊富だ。 その為、上位ランカーの神姫がアドバイスを請うことも多々在るという。 俺の相棒はさっさと胸ポケットから飛び降りてうさ大明神様の講義をかなり真剣に受けている。 はてさて店長の言うとおり、俺はパーツやらなにやらの事はは全部自分で出来る。 だからショップに用はないのだが、冷かしというのも居心地が悪い。 仕方が無いので内部パーツ系の棚に向かう事にした。 シリンダーアクチュエータとサーボモータのスペアが減ってきていたので丁度良い、と自己完結する。 が、しかしだ。 このショップの品揃えにはやはり目を見張る物がある。 メーカー純正パーツは当然の用に揃えられており、その他メーカーのパーツ類等も一通り網羅されている。 ここは聖地”秋葉原電気街”の専門店と同等かそれ以上の品揃えを誇っている。 だからついつい俺も本気でパーツ選びをしてしまう。 あれやこれやと手に取って、性能と値段を見比べて自分の懐と睨めっこ。 男というのは何時までたってもこういうものが好きなのだと言う事を改めて実感する。 三十分くらいだろうか。 俺がパーツと睨めっこを続けていた時間は。 ようやく買うものを決めた俺はカゴを片手にレジへと向かう。 その途中、うさ大明神様と相棒の様子を見るがまだまだ談義は終わらない様子。 何時の時代も女というのはお喋りが好きだな、とか談義が終わるまでどうやって暇潰ししようか、とかその他諸々の思惑を頭の中で巡らせている間にレジについた。 レジには先客がいたのでそれを待つ。 なんとなく先客の買っている物に目が行って少し驚く。 ありとあらゆる銃火器パーツがカゴの中に山を作っていた。 どんなバカかボンボンかと思って、その先客に興味が沸いた。 興味が沸くのと同時に何か嫌な予感が頭をよぎった。 嫌な予感がよぎったが俺はそれを無視して先客の様子を探る。 身長は160cm前後といったところだろうか。 後姿しか解らないので何ともいえないが、多分女だ。 しかし、そんなに銃火器ばかり買ってどうするんだと俺は心の中で苦笑した。 「まいどありがとうございました~」 店長の声がした。 清算は終わったのだろう。 俺も清算を済まそうと歩を進めた。 先客は振り向いて出口に向かおうとした。 そこで、俺と先客は鉢合わせる形になった。 心底、後悔した。 「…っ! 倉内 恵太郎、アタシと勝負しなさいっ!!」 「ワタクシハクラウチケイタロウデハアーリマセーン」 「くだらないマネしてんじゃないわよっ!」 最悪だ。 俺の前にいた先客、それは水野 アリカだった。 彼女はこの前のサバイバル・バトルからというもの、俺を見かけるたびに勝負を挑んでくるのだ。 運悪く彼女と俺は同じ町に住んでいるらしく、遭遇率は割りと高い。 俺としては同じ相手と何度も戦いたくもないので会う度に何とか巻いているのだが……。 最近会うことがめっきり減って油断していたところで、また見つかってしまった。 というか、今回は俺の不覚だろう。 彼女は曲がりなりにも神姫オーナーだ。 そしてここはそれなりに名の知れたホビーショップだ。 ……欝だ、死のう。 「さあ、今日こそは逃がさないわよ!」 「だーかーら、俺は同じ相手とは二度と戦わないって言ってるでしょうに」 これだけで引き上げてくれれば苦労はしないのだが……。 「なら大丈夫よ」 「は?」 「アタシのトロンベは生まれ変わったのよ! 超攻撃型MMSとしてね!!」 もう何を言っても無駄だろう。 そろそろ腹を括るトキかしらー。 「……はいはいわかりましたよお嬢さん。そこまで言うならお相手致しましょう?」 「…相変わらず糞ムカツクわね」 凄まじく冷たい視線を感じるが、そんなもんはスルーだ。 「店長、バトルスペース借りますね」 個人経営にしては上等な四面体のバトルスペース。 俺は四面体の一辺、簡易クレイドルがある一辺でナルのセッティングを施している。 不幸にもバーチャルバトル用のデータを持っていたので今回はそれを使う。 ……データも装備も持ってない。って言えば巻けたんじゃないの? 何か聞こえてくる気がするが、そんなもんはスルーだ。 一方、バトルスペースを挟んで対面する形の彼女もセッティングを施していた。 あきらかに銃火器満載と言った感じで、思わず溜息が漏れる。 「ナル~、こっちの準備はOKですよ~。そっちの準備はOKですか~?」 「はい、準備はOKです、マスター」 「はい~、では健闘を祈ります~」 備え付けられたコンソールを操作してナルを仮想現実の世界へと転送した。 同じく備え付けのディスプレイにナルの姿が顕れる。 それから間もなく、彼女の準備が出来たのだろう。 彼女の神姫、トロンベがディスプレイに顕れた。 顕れて絶句した。 まるでハリネズミのように備え付けられた銃火器の数々。 もはや犬型とは言い難い風貌に俺は軽く鬱になる。 「覚悟しなさい、倉内 恵太郎!」 「……は~いはい」 彼女の咆哮とほぼ同時にバトルの準備が整った事を告げるアラームが鳴った。 それと同時にバトルフィールドが決定される。 バトルフィールドは”荒地” 見渡す限り不毛な大地。 空にはどんよりと薄暗い雲が居座っている。 まさに俺の心模様そのものだ。 そこにナルとトロンベが転送される。 「地の利はアタシに味方しているようね?」 勝ち誇るような彼女の台詞に俺はもっと鬱になる。 が、その台詞にも一理ある。 荒野のフィールドには遮蔽物の類は存在しない。 その為、有利なのは砲戦型か高機動型となる。 「……ナル、徹底的に叩きのめしといてちょ」 「イエス、マスター」 俺はもう疲れたので、一言指令を伝えてバトルスペースを後にした。 「ちょ、アンタ何処行くのよ!」 「喉渇いたから自販~」 トロンベの脚部に備え付けられた八門のハイパーエレクトロマグネティックランチャー。 それはレールガンと呼ばれる類の火器である。 レールガンは電力を供給すればするほどに弾丸の速度は上がり、理論的には光速すらも突破出来る。 が、一介の武装神姫たるトロンベにはそれほどの電力は持ち合わせていないので精々音速くらいが関の山である。 それでも武装神姫相手には充分過ぎる速度なのだが。 そのハイパーエレクトロマグネティックランチャーから放たれた弾丸が音速を超えて飛翔した。 大地を抉り、大気を裂いて、眼前に立ちはだかる物全てを打ち壊さんと飛翔する。 目標はトロンベの前方10sm位置するナル。 音速を超えた弾丸がナルを貫いて試合終了。 トロンベはそうなることを願っていた。 が、現実はそう甘くなかった。 八つの弾丸は確かにナルに直撃した。 が、それはナルの身体を後方に押し出す程度だった。 ナルは左手に握る刃鋼、それを地面に突き刺し、剣の腹で音速を超える弾丸を防ぎきった。 もっとも、無傷という訳ではなく刃鋼の表面には八つの弾痕が薄く残っていた。 先手はトロンベ。 後手は、ナルだ。 ナルは地面から刃鋼を振り抜き、大地を蹴って駆けた。 腰のブースターを全開にしての疾駆。 10smを縮めてトロンベを両断しようと駆けて行く。 だが、トロンベとて伊達に鍛錬を積んだ訳ではない。 距離を詰めてくるナル目掛けて全身のミサイルを掃射。 幾重にも重なる爆音と共に、無数の大小ミサイルが白い尾を引きながら飛来する。 文字通り雨の様な爆撃。 ナルとミサイル群とは直ぐに衝突した。 否。 ミサイルはナルと衝突することは無かった。 ナルは真っ先に飛んできた大型ミサイルの弾頭を刺激する事無く、踏み台にして跳躍。 踏み台にされたミサイルは地面と激突、多数のミサイルを巻き込む大爆発を巻き起こした。 ナルはその爆風を背に受けて更に加速し、トロンベへ一直線に突っ込む。 その後ろでは、目標を見失った中小ミサイルがあさっての方向へ飛び去り、地面と衝突している。 ―――一閃。 刃鋼の重量とナルの速度を乗せた一撃は、トロンベの左側を斬った。 が、トロンベ本体は左腕を多少掠った程度で主な被害はハリネズミの如く付けられた武装だった。 トロンベ本体のダメージこそ少ないものの、余波である衝撃はトロンベを震わせた。 「っく!」 多少よろめきつつも体勢を崩す事無く、次の攻撃―――背中に残った二門の蓬莱・壱式を背部に向ける。 銃口の先では、ナルがスライディングの要領で勢いを殺している。 その距離、およそ15sm。 ナルが再接近するにしてもそれまでに充分迎撃可能と見たトロンベは蓬莱・壱式に弾丸を装填し、発射しようとした。 が、それとほぼ同時。 ナルの右腕に装着された銃鋼から無数のビームが放たれた。 背後からの攻撃に一瞬反応が遅れるトロンベ。 だが、すぐさま回避しようとしたが重装備が祟り回避できず、ほぼ全弾を背中で受け止めてしまう。 その衝撃に耐え切れず、トロンベは前のめりに倒れてしまった。 「何してるのよっ! 速く立ちなさいよ!!」 アリカの叱咤がトロンベの通信ユニットに響く。 直ぐに体勢を立て直そうとして、そこである事に気付いた。 ハリネズミの如く備え付けられた火器の類。 その重量が邪魔して上手く立ち上がることが出来ないのだ。 「…っく……う……ぁ……」 何とか立ち上がろうと両腕に力を入れていた、その時。 「やはり負け犬は負け犬ですね」 ナルの刃鋼がトロンベを文字通り両断した。 「……そんな」 ディスプレイに踊る『YOU LOSE』の文字。 アタシはそれを前に言葉を失った。 荒野というフィールドに完全砲撃仕様のトロンベ。 それに加えて相手のマスター不在。 地の利、時の利はアタシに味方していた。 それなのに。 「あれ、負けちゃったの」 青瓢箪が缶コーヒー片手に戻ってきた。 「なんで…なんで……」 アタシの頭は混乱していた。 何か言いたい筈なのに、何も言葉に出来ない。 出てくるのは『なんで』という疑問のみ。 「なんで負けたのか理解できない。そんな顔だね」 「……当たり前よ。アタシのチューンアップは完璧だったわ! トレーニングでも完璧だったのに……!」 そう、何十何百何千回とトレーニングを積んだのだ。 それなのに。 「……そうだわ、神姫よ。神姫の性能が劣っているのよ! それ以外に負ける要素なんてありえないわ!」 アタシは一つの結論に達した。 トロンベとあのストラーフの元々の性能が違うからアタシは負けたんだ。 これ以外にアタシが負ける要素は見当たらない。 「…お嬢さん。そんな事を言っているようでは何百年経っても俺には勝てないよ」 「そんな事無いわ! 神姫の性能が悪いからアタシは負けたの! だからもっと良い神姫を買えば…!」 「機体の性能差が戦力の決定的差でない。という言葉がある。今回、お嬢さんの神姫の性能だけでみるならば、俺のナルと同等だったと思う。しかし、お嬢さんは負けた。しかもマスターのいない俺のナルに、だ。これが何を表すか解るかい?」 「…神姫の性能が同じ? だったら一体何が悪いのよ!」 本当にコイツは訳の解らない事を抜かす。 「二対一でも戦力で負けていたと言う事さ。そしてそれは経験に大きく起因する。もし仮にお嬢さんが新しい神姫を買ったとしても、それは赤子と同じ。まさに赤子の手を捻るが如し、てね」 まあ、確かにそれも一理ある。 「だったら、トロンベにもっと場数を踏ませれば…!」 「それでようやく相打ちといったところかな。お嬢さんが俺達に勝つためには、足らない物がもう一つある」 「なによ、勿体つけてなんでさっさと言いなさいよ!」 青瓢箪は一口缶コーヒーを口にした。 「それはお嬢さん自身で見つけないと意味が無いのさ」 「……はぁ?」 コイツ、本当は何も考えてないんじゃないの? 「しょうがない。最大唯一のヒントだ。神姫は唯の玩具じゃない。笑いもすれば、泣きもする……もっとも、受け売りだけどね」 「…訳わかんないわよ」 「それが解ったらもう一度戦おう。リアルでね」 リアルバトル。 その言葉に何故か身体が強張った。 上位ランカー戦の主であるリアルバトル。 仮想現実ではなく、現実でのバトル。 使用される武器は全てリアル。 即ち受ける傷もリアル。 最悪の場合、神姫本体すら壊れる可能性を孕んでいる。 だが、これはチャンスでもある。 あのストラーフを破壊できるかもしれないのだ。 「…良いわ。その勝負受けて立つわ」 「日時はそちらの好きに決めてもらって構わないよ。それじゃあ、失礼するよお嬢さん。」 そう言うと青瓢箪はさっさと出て行ってしまった。 後に残されたアタシはただ帰る準備をするだけだった。 先頭ページへ 次へ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/213.html
『さぁて、皆さんお待ちかね……第一回全国一斉バトルロワイヤル、開催だぁっ!』 ピンクのシャツに赤いスーツを着込み、眼帯をした、丸刈りで髭の中年司会者が絶叫する。 それがフィールド及び全国の中継会場に木霊。観客もそれにつられてヒートアップしていく。 『まずはルールをご説明しましょう。それはシンプル! 戦って……戦ってぇ……戦い抜いてぇ!勝ち残った神姫が…優勝賞金一億円を、手にするのだぁっ! 』 ワァァァァ!と各地のモニタを介してみている観客たちから、歓声が上がっている。 やがてモニターにバトルフィールドの情景と全体マップが映し出される。 情景はランダムパターンで次々と映し出されてゆく。荒野、市街地、水中ete…… 全体マップの方は一言で言えば南海の孤島、といった感じで半円型、もしくは緩い水滴型をしている。 そしてそのマップには木の年輪のような線が入れられている。 『さて、それでは続いて詳細なルールをご説明しましょう。 まず武装神姫たちはこのフィールドの最も外周に当たる、この第一エリアにランダムに配置されます。 その後の移動及び戦闘は自由。戦い生き抜く過酷なサバイバルに挑戦してもらいます。 それと隠れ続けての不戦勝狙いの防止策として、一定時間ごとに第一エリアから順次、進入不可能エリアと変化。 進入不能エリアになった時点で、そのエリアに存在する武装神姫は全て強制失格になるので注意を』 『それではぁ……神姫ファイトォ……!レディ、ゴー!!!』 ねここの飼い方・劇場版 ~六章~ 『ねここ、雪乃ちゃん、アリア、現状位置把握、OK?』 「うん、みさにゃん。ポイントX154Y658だね」 「こちらはX199Y127です、姉さん」 「X101Y352」 私の指揮下の3人より返答が入る。 ゴーストタウンの廃ビルの内部に潜むねここ。森林に潜む雪乃ちゃん。地底洞窟を黙々と進むアリア。 バトルが開始されたと言っても私たちの目的は違う。 まずはみんなと合流しないといけないのだけれど…… 私はヘッドギアの通信チャンネルを切り替えて、全通話モードに切り替える。 『どうですか、皆さんの位置情報をお願いします』 OK,了解と返答が続き、個人用ディスプレイの全体マップ上にメンバーの位置が表示される。 『……結構バラバラに配置されましたね。店長、突入ポイントの特定は出来ましたか?』 『あと10分……いや5分だけくれ。絶対に割り出す。それとジェニー、いやジェネシスの出現ポイントが確定した、そちらは今データを送る』 『了解……データ来ました、第2エリアの中央辺りですね。各員はそのポイントへ移動を開始してください。 それと戦闘は出来る限り避けて戦力の温存を……みんな気をつけて』 みんなの威勢の良い返事が返ってくる、士気は高い。 『あ、それとねここは十兵衛ちゃんとの合流を優先して。 いくら新型ボディで稼働時間が延びてても、今回のような長期戦では不利でしょうから、当初の予定通りねこことドッキングを』 「わかったの。ポイント確認……いきまーすっ☆」 『あ、ちょっと待てぇ!』 言うが早いかビルの屋上まで飛び上がると、一気にブースターを開いて高速移動を開始するねここ。 屋上を足場に連続ジャンプして最短距離を移動するつもりなのだろうけど 「にゃぁぁぁっ!?」 何処に敵がいるかもわからないのに、そんな轟音を立てて空中をすっ飛んで行けば良い標的と思われる訳で。 案の定ビルの陰、柱の角、その他諸々あらゆる所から、数えるのも馬鹿らしくなるほどの火線がねここに襲い掛かる。 冷静に考えればそんな頭上を高速移動中のに撃ったって無駄弾なのだが、この数では万一の事態もあるので馬鹿にはならない。 『あっちゃぁ……こうなったら逆に吹かして振り切って!』 「りょ、りょうかいなのっ!」 ここぞとばかりにフルパワーを出し、一気に振り切りにかかるねここ。 開始から燃料の大量消費は避けたかったけども、やむを得ない……トホホ。 『十兵衛、無理にリミッター解除はするな。初めから負担が大きくちゃ最後まで持たないぞ』 「大丈夫ですよマスター。この程度なら……いけますっ」 竹林を縫う様に駆け抜ける十兵衛。その背後には多数の神姫が迫っている。 隻眼の悪魔の名は非常に有名であり、倒して名を上げようと、また1対多数で早めに強敵を仕留めてしまおうと考えるものが多いらしい。 また十兵衛の弱点として、近接戦闘の勝率が悪いと言う事が広まっており、五月雨式に多数で攻撃を仕掛ければ倒せるのではないかとの予測もあったと言える。 そして十兵衛は目立つ。ストラーフでレーザーライフルを装備しているのも少数派であるし、何よりその眼帯の持つインパクトは絶大といえた。 それら複数の理由のため、十兵衛には像に群がる軍隊アリのように多数の敵が群がってきていた。 最初は薙ぎ払っていた十兵衛だったが、敵数の多さとエネルギー温存の為に離脱に切り替えた。 しかしそれでも尚、結構な数が追尾してきている。 「しつっこいなぁ……もぅ。こうなったら……」 真・十兵衛に人格を切り替え、まだ食い下がる追跡者たちを一気に蹴散らそうと踵を返した瞬間 「に゛ゃぁぁぁああああああああああああ!!!」 ドガァァァァァン!!! と追跡者たちを音速の衝撃波で吹き飛ばすねここ。 ……単に加速しすぎて止まれなくなっただけなのだが…… 「真・十兵衛、覚s………ぇ」 覚醒したはいいものの、辺りには吹き飛ばされて戦闘不能になった神姫たちが転がるだけであった。 「……戻る……」 ちょっと不貞腐れたように元の十兵衛に戻っていく真・十兵衛。 『……何やってるんだか』 凄いんだか、凄くないのだかよく判らないわね、全く。 「な……なんとか合流できたのぉ」 「ありがと♪ 助かったよ、ねここちゃん」 減速しつつ、やっと十兵衛ちゃんの所に辿り着いたねここ。 『二人とも急いで。他の娘はもうポイントに到着しつつあるから』 「わかったの。十兵衛ちゃん落ちないでねっ」 「うん……おもいっきりやっちゃって!」 再びブースターに点火する。二人は他の仲間のいるポイントへ向けて、まっしぐらに加速してゆく。 「おい、何をする気だ! ぅわ!?」 後頭部を鈍器で殴られ、昏倒するスタッフ。ホストコンピュータのあるこの施設は既にその犯人たちに占拠されていた。 ごく一部の部外者は目の前の男のように既に排除済。 「……よし、始めろ」 奥にいたリーダー格らしい男が指示を飛ばす。 「我等の怨み、思い知るが良い……鶴畑、オーナー、武装神姫どもめ……」 ……そして、狂気の祭典の幕が上がる。 『第一エリア、封鎖、3分前。繰り返す、第一エリア……』 合成アナウンスがフィールドに響き渡る。 と同時にセンターなどの現場スタッフが俄かに慌て出す。予定時刻よりも大幅に早い時点でのエリア封鎖なのだ。 「え、何なに?」 「そんなっ!?」 「うそ、まだ早いよっ」 まだ第一エリアに取り残されている神姫達も狼狽する。戦闘を行っていた者も慌てて第二エリアへと移動を開始する。 「ねぇ、エリナちゃん。早く隣のエリアに移らないと失格になっちゃうよ!?」 密林エリアの中、アーンヴァル型の神姫が、隣に佇むハウリン型の神姫にそう呼びかけている。 二人は友人同士、この大会でも最後まで一緒に戦おうと決めていた。 だが合成アナウンスが流れた途端、突然エリナが夢遊病者のような状態になってしまった。 「エリナちゃん!? 早く行こうよ、ねぇどうしちゃったの!?」 肩を掴んで揺さぶるが一切の反応がない。……いや、それに刺激されたのかエリナの顔が上がる。 「エリナちゃん!よかったぁ、さ、早く行こ!?……ぅ……」 彼女がエリナの手を取って駆け出そうとした瞬間、エリナがその手に装備した蓬莱壱式で至近距離から砲撃したのだ。 それは腹部に直撃、巨大な風穴を作り出していた…… そのまま上半身が千切れ、ドサリと崩れ落ちる。 「ど……ぉ……し……」 驚愕の表情が張り付いたまま、涙を流し、半ば消えかかった意識でそれだけを発する彼女。 エリナはそんな彼女へ歩み寄ると、その頭部に蓬莱壱式の銃口を押し当て…… 降り出したスコールの中、辺りには砲声の轟音だけが響き渡っていた…… 暴走の刻が、来たのだ。 そうした小競り合いがあらゆる所で発生。。エリア離脱を図る神姫たちに暴走神姫が襲い掛かったのだ。 離脱に気を取られすぎていたある神姫はあっさりと倒され、なんとか迎撃した神姫にもタイムリミットが迫っていた…… 中には先程のように友人に対して攻撃を躊躇う内に、逆に倒されてしまったケースも多い。 そして……運命の時刻がやってくる。 「ねここちゃん。あれを!」 十兵衛ちゃんが叫ぶ。高速移動しつつも振り返って状況確認をしようとするねここ。 「何……あれ」 第一と第二エリアの境界に強力な電磁バリアが張られ、完全に行き来を不可能にしていた。 「そんなっ! 後一歩だったのにぃ」 目の前でバリアが発生し、移動不能になってしまったマオチャオ。 「あーあ、こんなとこでおしまいか。ちぇー……ぇ」 愚痴りつつ回収されるのを待っている、と、マオチャオの足元から黒い稲妻のようなモノがバチバチと放電してくる。 とっさに回避するマオチャオ、だがソレは着地地点にも発生し…… 「きゃぁぁぁぁぁ!?」 黒い稲妻がマオチャオの全身を犯してゆく。 やがて稲妻が収まると、そこには感情の一切ない神姫、いや只の操り人形がいるだけだった。 「ちょっと待って、何かバリアから出てきます……望遠レンズ倍率拡大、ズームにして各種センサー展開……」 十兵衛ちゃんが神眼を使い、その正体を暴き出す。 『どうだ、何かわかったか?』 「……どうやら暴走神姫みたいです。あの夢遊病者みたいな表情は間違いありません」 『……って事は、始まったのか』 「はい……しかも敵は封鎖エリアに関係なくやってくるみたいですね」 『バリアを抜けてきてるものね……』 事態は一刻を争う状況になってきたみたい、ね…… 「ねここちゃん、合流ポイントへ急ぎましょう!」 「うんっ」 ……舞台の第二幕が上がろうとしている、悪役の次は、ヒーローの出番! そう信じて。 続く トップへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1735.html
「くっ……!!」 「ほらほら!どったのランちん?」 「ラン、焦るな!ミコちゃんのペースだぞ」 「わ、わかっています…し、しかしこれでは…」 ランは手にした愛刀コルヌの刀身でミコの撃ち出すアルヴォ PDW9の弾丸を防いでいた 「みゃはは、そうは問屋がおろさないってね~。ランちんに近づかれたらしんどいし、私のスタイルじゃこの距離が一番なんだってさ。ご主人さまが言うにはね」 「くっ……」 ランはその身を右横に回転させた 「おっと」 すかさずミコの狙いも移動する 「はぁああ!!」 低い姿勢のまま真上へと飛びあがり両手でコルヌを頭上へ高々と構えたラン 「うわっち!!」 すかざずミコは振り下ろされる剣劇をバックステップでかわした 「やるねぇランちんw」 「ミコ姉様の弾幕を抜けるには多少の無茶も必要ですので…!」 言うないなやミコとの距離を縮めるラン 『三段突き!!』 頭部・胸部・腹部に向かって素早い突きがミコを襲う そのミコはというと大きな二つの眼を怪しく光らせて… 「うにゃにゃーーー!!」 と叫びながら両の手に持ったモノですべて撃ち落としていた 「なっっ!?」 「にゅふふのふ~www」 「そ、それはノア姉様の『干将・莫邪』ですか!?」 「そだよ~~かりてきちったww」 「あの子…いつの間に…」 俺の横にいるインターフェイス姿のノアがあきれた目でバトル画面を見ている 「ミコ、あなた何勝手に持ってきてるんですか」 「いいじゃん。ちょっとだけかしてよ~」 「ずりーぞアネキ!姉さんの武装なんて使いやがって!」 「にゅふふ~うらやましいでしょユーナ。でもさ、ユーナだってノアねぇから赤丸クン借りてるじゃない」 「あ、赤丸?…いや。まぁ確かにそうだけどさ…」 「いいじゃない赤丸クン。ノアねぇと一緒に戦ってきてる経験は頼りになるし、かっわいいしねぇー」 「や、まぁ頼りにはなるしイイ奴だけどさ…」 「しかも最近二人で熱心にバトルの研究とかしてるみたいじゃないの~」 「…アネキ、何が言いたいんだ?」 「にゅふふふ。何がってそりゃ…」 「ミコ、かがめ」 「うに?」 俺の指示通りかがんだ瞬間水平にミコの上をコルヌが空を切る 「バトル中にのんきな奴だなお前らは…」 「にはは…失敗失敗…w」 「くは~~、どうにもこうにもならねぇな。射撃も接近戦もこなすミコちゃん相手ってのはどう戦っていいもんか…」 「つかず離れずの距離感覚を保ち、たとえ割って入れたとしてもすぐさまその対処方を明人さんが指示しています。それに忠実に正確に動けるミコ姉様…ノア姉様の強さが目立ち過ぎているというのもありますが…ミコ姉様も強い!」 「ミコちゃんは『強い』ことに含め…『上手い』んだ。戦い方が、その駆け引きがな…」 「にゅふ~~伊達に『銃剣士(ガンブレイダー)』なんて呼ばれてないよん♪」 そういえばそんな二つ名もあったなぁ… 俺自身すっかり忘れてたけど… 「うに!?ご主人さまヒドイー!!」 「いいから前向けお前」 「さて、どうしたもんかなランスロット?」 「そこで私に聞いちゃうんですか!?」 「実際に戦うのはお前だしな。指揮官としては現場の意見も聞き入れねばならんのだよ」 「……はいはい」 「マスターの意見をそんなあつかい!?」 「ではお答えさせていただきますが…今の私のスキルではミコ姉様に太刀打ち出来るのは接近戦だけかと思います」 「ふむ、へたに小細工するよりかは徹底的に一本筋を通すべきだと?」 「はい。『銃剣士』であるミコ姉様の『剣士』の部分とも手合わせ願えるなら…」 「ん~……ならやってみっか…」 「ん、作戦タイムは終了か?」 「おうよ、作戦名は…」 昴が話す中ランは『牙突』のような構えをとる 「『ガンガン行くぜ!』だ」 ダッシュとともに鋭い突きを繰り出すラン 「にゃあ!」 右手に持った干将でいなすミコ 「はああぁぁ!!」 ランはそのまま止まることなく体を一回転させて逆胴を打ちにいく 「にゃんのぉぉ!!」 二人の白熱した剣はバトルアリーナを踊るように舞っていた… 「で、結局はアネキの勝ち…か」 ここは近くの神姫センター 今日はエルゴは休みだったので久しぶりに来てみたんだが 今はひとバトル終えてティールームで休憩中 「やはりまだミコ姉様にはかないませんね」 「でもランちんなっかなかのもんだったよ?」 「そ、そうですか?有難う御座います!」 「ふむ、確かにいいレベルなんだけどな…」 俺から見てランに足りないもの… 「そうだな、ランも何か自分専用の武器を持ってみたらどうだ?」 「私専用…ですか?」 「ああ、ノアの《クロノスベル》やミュリエルの《アポカリプス》、レイアの《マステマ》みたいな…な」 実際武装の良し悪しで勝負が決する……とまでは言わないがその割合が大きいのは確かだ 武装を使いこなせるだけの実力があればそれに見合うだけの名刀、名機が必要となってくる 「俺が思うにランは今の『コルヌ』で戦うのはつらいだろ?」 特に接近戦型の神姫となると獲物の重要性は高い 「確かにそうですが…」 「なら私のお下がりになりますがあれを使ってみてはどうですか?」 紅茶の入った缶をテーブルの上に置いたノアはそう言った 「あれって…『紅蓮』のことか?」 「『紅蓮』?」 「ちょっと待ってろ。確か『紅蓮』の入ったボックスは……あ、あったあった」 俺は武装関係の入ったアタッシュケースの中から桐の箱を取り出す 「なんだそりゃ?」 「ノアが《クロノスベル》を使うまで愛刀としていた龍刀【紅蓮】だ」 桐箱を開けると中には『紅蓮』の名の通りの紅色の刀が入っていた 「しかしこりゃ……刀と言う割には神姫サイズならちとでかくないか?」 「そうだ。正確に言うと大太刀と言ったほうがいいだろうか」 「刀だからな…ランは騎士だから扱いには馴れないだろうが…使ってみるか?」 「は、はい!!」 「では向こうのトレーニング用媒体で私が扱い方を教えましょう」 「はい、ノア姉様。お願いします」 「うにゃ!私も行く~」 「アタシも!」 三人はノアに連れられて席を立ちトレーニング用媒体のほうへと向かった 「すまねぇな明人」 「なに、気にすんな。あれはなかなかの名刀だからな。桐箱の中に入れとくよりもランに使ってもらった方がいいのさ」 あいつもそれを望むだろうしな… 「んじゃ有り難く使わせてもらうな。いやぁ丁度よかったぜ、最近香憐ねぇと孫一だけじゃなくて葉月とレイアまで実力付けてきてるからなぁ…うちらの周りの女性達は強くてならんねぇ」 「ははっ、まったくだ」 実際のところ俺達元八相のメンバーのうち半数が女性であるというこの事実 うん、全くもって女性は逞しくなったと思う 「いやはや葉月も我が妹ながら逞しくなっちまってなぁ…兄としては喜んでいいものなのかどうか…」 「あ、そういや葉月のことでお前に伝えとかなきゃならんことがあった」 「ん?」 「あいつ、大学にファンクラブが出来てるらしいぞ?しかもかなり大規模の」 …………はい? 「ちょっとまて、ファンクラブ?」 「いや、前からそれなりに人気はあったみたいだがな。なんてったって鳳条院っつうめちゃめちゃ良家の御嬢様なのに誰にでも分け隔てないあの性格だろ?顔だってそこらのアイドルグループなんかよりは上のレベルだ。ありゃ世の健全なる男どもがほったらかしにしとくわけねぇわ」 「いや、まぁ、そりゃ……」 確かに兄の俺からしてみても葉月がモテるという話は納得のいくものではあるんだが… 「それがこの前の鳳凰杯でかなり目立ったろ?いや、勇ましいのなんのって男どもだけならず後輩の女の子にも慕われちゃって大変なんだとさ」 「……はぁ、そりゃお気の毒様だわな…」 後輩の女の子って…あれか、「御姉様ステキ!」的なスイッチでも入っちゃったってことか… 「んで問題が…だな」 …なんかやな予感 「来週葉月の大学であるイベントが行われるらしい…」 「あるイベント?」 「ああ、なんでもそのファンクラブのやつらを中心にかなりの数の学生が武装神姫を始めたらしくてな?まぁ元からやってるやつもいたんだそうだが…それを好機と武装神姫サークルのやつらが主催で大学全体の神姫バトルロイヤル大会を行うんだと」 「ふーん。でもそれがどうしたよ?発端はどうであれいたって普通だと思うぜ?」 「話は最後まで聞けって、こっからなんだよ問題は」 いやに焦らすなこいつは… 「この武装神姫サークルの連中、葉月がレイアを神姫にし始めてから何度か勧誘してきたらしいんだがな、その度に断られてるんだ。それでもこいつらは未だ諦めてないらしくてな。それに今回の騒ぎだ。葉月をサークルに入れればそれにつられて大量に入ってくるであろうやつらを狙ってんだと」 なんじゃそりゃ… 「大量に会員集めて入会費をふんだくろうって狡いマネしようとしてるんだわなぁ」 「んなやつらほっとけばいいじゃねぇか…現に葉月はそのサークルには入らねぇんだろ?じゃあこの話もチャラになるんじゃねぇか」 「それがな…そうもいかねぇんだ」 「?」 「やつら、葉月がしつこい勧誘を迷惑がってるけれど強く断れない性格に付け込んで賭けを持ち出してきたらしいんだよ」 「…賭け?」 「ああ、なんでも葉月に対する勧誘を今後一切行わない代わりとしてバトルロイヤルの優勝者特典として『葉月に一つだけお願いを叶えてもらえる権利』を付ける事を交換条件にしてきたんだと」 「…おいおいおい、ちょっと待てよ」 そんなもん激しく向こうに有利じゃねぇか… サークルメンバーが勝てばもちろんその特典を使い葉月にサークル入りをさせて目標達成を狙うだろう 腐ってもサークルメンバーだ、葉月の追っかけで始めた初心者程度には負けないだけの自信があるのだろう 加えて特典につられてその追っかけ初心者どもも大勢参加する バトルロイヤルの性質上、いくら葉月とレイアが鳳凰杯決勝リーグまで進んだ実力者でも優勝するには圧倒的に不利だ 「んで、やっぱり葉月はその条件…」 「ああ、受けちまった」 「………やっぱりそうなるか」 今日も俺の予感は冴えていた 「と、いうわけで来週の金曜日、そのバトルロイヤルに参加することになった」 「……いや、まぁそりゃいいんだが」 「うにゃ、大体はわかったんだけど…」 「……相も変わらず妹さん想いですね、ご主人さま」 「うっ……しょうがねぇだろ、認知しちまったんだ。兄貴としてはほっとけるかよ・・・」 ここで見捨てたら男がすたるってなもんだ 「しょうがないですね…で、その大会の参加者は何人ぐらいの規模なんですか?」 ……一番いい辛い所を聞いてくるノア 「んと…それがな…」 「…ご主人さま?」 「?どうしたんだアニキ」 「バトルロイヤルなんでしょ?こっちは味方が私、ノアねぇ、ユーナ、ランちんに孫いっちゃん、レイアっちにミュリエルんだから計7人だね。あ、冥夜んも手伝ってくれれば八人になるよ」 「んじゃぁこれだけいれば50人位相手でもなんとかなるよな。なんたって『緑色のケルベロス』に『黒き狼』、『ガンブレイダー』まで揃ってるんだ。もしかしたら70人ぐらいでも大丈夫なんじゃねぇ…」 「……………150人」 「………へ?」 「………あ、アニキ?い、今何て?」 「………だから…150人同時プレイのバトルロイヤル」 「「は、はあああああぁぁぁぁぁぁっっ!!??」 「………ご主人さま…」 うん、えっと、いや、なんかもう…ゴメンナサイ… 続く メインページへ このページの訪問者 -
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2721.html
『マッドサイエンキャット』-1/3 ※ 念のための注意書き ※ 第二章でも同じ注意書きをしましたが、インダストリアル・エデン社製神姫をご存知ない方はおりますまい。 ◆――――◆ バトルをするわけでも、他に用事があるわけでもなく、私はオンラインの茶室を借りることがあった。 月に一度か二度、お金はかからない。 静穏な雰囲気を壊さない程度の和風にしつらえられた四畳半で、ただ時間の過ぎるままにまかせる。 ちゃぶ台を部屋の隅によせて、部屋の中心に仰向けに寝転がって、小窓から、あるいは壁を伝って聞こえてくる自然の音に耳を澄ませる。 竹林を撫でるように流れる風に揺れる音。 絶え間なく水が溢れる池では時々、魚が跳ねた。 私の知る限りここは、最も贅沢に時間を使うことのできる場所だった。 勿論、ここはディジタル信号によって作られた場所であり、本物の自然とは真逆の存在であると言ってもいい。 小窓からは確かにあるがままの自然を見つけることができるが、簡素な戸を開いた先に通じているのは、銃弾飛び交うバトルステージか、もしくはクレイドルに横になっている自分の体だ。 それでも、私を含めたすべてを電子データで作られたこの場所を、私は独占したくなるくらいには気に入っていた。 だから、 「失礼する。我は『清水研究室 室長兼第一デスク長』ゴクラクだ。ふむ? セイブドマイスター殿は休養中であったか。邪魔をしてしまい申し訳ない」 招待した覚えのない奴が戸を開けて踏み込んできて、ましてそいつが顔見知りでなく、さらに清水研究室の関係者とあっては、安らかだったところから堪忍袋の緒が切れるところまで一瞬で到達するのも仕方のないことだった。 機関砲を具現化し(茶室を予約する際のアカウントがバトル用だから、武装も一緒に登録される)マズルの火花が直接当たる至近距離で一発ぶっ放した。 しかしこの侵入者は部屋に入ってきた姿勢のまま右に『ずれた』。 ずれた、という言葉が適切かどうなのか分からないが、少なくとも私には信号機の黄信号が赤信号に変わるように、一瞬の間にこいつの立ち位置が変わったように見えた。 腰まで届くほど長く、羊毛のような癖がある灰色の髪は戸から入ってきた時のまま、少しも揺れ動いていない。 髪は早く動けば動くほど頭に置いていかれるようになびくはずなのに。 弾丸とマズルから出た火花のどちらも侵入者の横を通り過ぎ、戸の向こうへと消えていった。 「そう邪険にされるな。今日は戦いに来たのではない」 しかも全然動揺してない。 見たこともない型式の神姫は戸を閉め、隅にあったちゃぶ台を部屋の真中に置いて、どっかりと胡座をかいた。 「これはつまらぬものだが」とちゃぶ台の上に出された草色の包を私は無視して、ふてぶてしい神姫を観察した。 切れ長の目の奥で、金色の瞳が私をサーチするように怪しく光っている。 無言のうちに試されているような不快感が肌にまとわりついた。 私にはその金色が、濁って濁って濁り切った果てにできた色のように思えてならなかった。 まだ出会って間もないにもかかわらず、こいつは私程度では手に負えないことを直感で理解してしまった。 油断すれば腰が抜けそうになるのを、相手には見えないように必死にこらえなければならなかった。 もし畳の上にへたり込んでしまったら、私は恐らく、この型式すら分からない神姫に屈服してしまう。 戦闘力は疑う余地もなく普通の神姫の枠で測れないレベルにあるだろう。 しかしこの神姫は強さ以上に危険な何かを隠している。 ゴクラク(極楽)なんてものが本当あるとしたら、恐らくこいつが歩く道とは逆方向にあることだろう。 少しでも目をそらそうと、シルエットを全体的に眺め回した。 まず目に入ったのは額からそそり立つ、太くて硬そうな黒い角。 神姫が頭にとんがったものを立てるのは珍しいことではない。 カブトムシやらクワガタなどの神姫は当然のこと、私にだってうさぎのような耳がある。 でもこいつの角は私達の飾りやセンサー、アンテナとは違う、正しい意味での角だと感じた。 威嚇するため、あるいは貫くため。 ポケモンじゃあるまいし、まさか本当に主武装ではないのだろうけど、それだけの威圧感があった。 角の次に目に入ったのは、顎の先端から真っ直ぐ下に降りた先にある肌の谷間だった。 谷間に何かを差し込めば力を入れることなく挟めてしまいそうだった。 盛ってやがる。 ムカつく。 腕や足、首元、カーディガンはすべて緑の濃淡で描かれた迷彩柄で統一されている。 密林に飛び込む気満々であるようだが、ボリューム過剰の髪と誇張されまくっている胸元を見れば、どんな場所であっても小賢しく隠れることを良しとしない性分であることが分かる。 関わる気になれず、できることならゴクラクを無視して茶室から出ていきたかった。 しかしゴクラクには、有無を言わせない雰囲気があった。 「一躍有名になられたセイブドマイスター殿と話がしたかったのだ。唐突な訪問であったことはご容赦願いたい」 「私がこの場所にいることは誰も知らないはずよ。どうやって潜り込んだのかしら」 これには答えず、ゴクラクは話を続けた。 「先日の一戦はさすがだった。強者を相手取っても冷静に策を巡らせ勝利してしまうとは、凡百の神姫にできることではない。我が研究室の者共にも見習わせたいものだ」 「ふん、いくら褒めたって私が清水研究室に出すものなんて何もないわよ。あんた室長だって?」 「そうだ」 「なら部下のしつけくらいちゃんとしなさいよ。ギンが節操無く勧誘し回ってるのは研究室の方針?」 「失敗を表に晒してしまったのは研究室として手痛いことだ。ギンの武装がジョーカーのようなものであることはご存知であろう。『大魔法少女』を引き入れることができれば儲けもの、程度に考えていたのだがな」 芽のない欲を出してしまった、と言うゴクラク。 しかしこいつの表情から後悔する気持ちは欠片も読み取れなかった。 すべての感情が瞳の金色の中に混ぜられ、押し殺されているようだった。 「我が清水研究室は強い神姫を求めている。今は第七デスクまで【それなり】の神姫を揃えたつもりだが、まだ不足している。我に匹敵するレベルとまではいかずとも、そうだな、少なくともギン程度の神姫をあと数体は揃えたい」 ギン程度。 その言葉を聞いた私は心を揺らさずにはいられなかった。 「何と戦ってんのよアンタは。世界大会の賞金でも狙ってんの?」 ゴクラクは答えなかった。 まあ、こいつらの目的なんて興味無い。 本当に賞金目当てなら、私の知らないところでどうぞご自由に荒稼ぎしてくださいって感じだ(目の前の神姫がお金なんて俗なものに興味を持つとは思えないけど)。 気になったのは、清水研究室が第七デスクまであるということと、ゴクラクがギンをずいぶん格下に見ているってことだ。 ちゃぶ台を挟んでゴクラクと向かい合うように、私も座った。 セイブドマイスターは具現化したまま傍に置いた。 ゴクラクが持ってきた包の中身が少しだけ気になった。 「第七デスクまであるってことは、他のデスク長もギンみたいに勧誘して回ってんの?」 「そうだ。しかし我は『強い神姫を集めよ』としか命令していない。収集対象と手段は各々に任せてある」 七という数字にいや~な予感がする。 私が目下挑戦中の人間になるための勝利ノルマが七人。 清水研究室のデスク長も七人。 アリベは清水研とは無関係だし、次の対戦相手はマオチャオのリーダーともう決まっているらしいけど、残り四人の中に清水研の連中が含まれないとは限らない。 いや、あのひねくれた神様のことだし、絶対にあと一人くらいは入ってくる。 そのあと一人の最有力候補は今、目の前に座っている。 改めてゴクラクの姿を見た。 刺さると痛そうな額の角、肩幅よりも大きく膨らんだ灰色の髪、無駄にミリタリー仕様の服、そして金色の両眼。 この神姫を相手にして、私に勝つ可能性はあるのだろうか。 「もう一つ質問。あんたの型式は?」 「インダストリアル・エデン社製犀型MMSディアドラ。飛鳥型とは比較にもならないマイナー神姫だ。しかしその性能、特に我の強さはそこそこだと自負している。今日はセイブドマイスター殿に我の能力を伝えるために来た」 「なっ、何よいきなり。教えてって頼んだ覚えはないわよ」 「ディアドラは元来、重火器による制圧を得意としている」 ゴクラクは勝手に話しはじめた。 「しかし我は室長であるが故に雑務が多く、ペンより重い物を持たぬものでな、セイブドマイスター殿が愛用されるような重火器は勿論のこと、ハンドガンのような小型武器であっても携帯するのは億劫だ。武装は最小限まで減らしたい。ところでセイブドマイスター殿は【共振】という現象をご存知か?」 「共振? 共鳴みたいなもの?」 「そうだ。あるシステムにそのシステムの固有振動数で力を加えると、その振動は増幅される。振り子を想像するといい。一定の間隔で押してやれば振れ幅は増幅するだろう。その時の間隔が固有振動数であり、この現象を共振という」 さすが研究室にいるだけのことあって、小難しい理屈を出してきた。 たとえ話で分かりやすく説明しようとしてんのは分かるけど、私のような一般人は専門的な単語を出されるだけで思考回路をフリーズさせてしまうことをゴクラクは知るべきだ。 振り子とか言われても、それを思い浮かべるのに数秒かかってしまうわけで。 「乱暴な言い方をすれば共振とは力の乗法だ。物の思わぬ破損を招く厄介なものだが、我はそれを武器として扱う術を持っている」 「ふ、ふうん」 私はたぶん、すごく重要な情報を聞かされている。 自ら戦術の情報を公開するなんて「バトルでカモにしてください」って言ってるようなもので、そうでなければジャンケンで「私はチョキを出す」と宣言するくらい程度の低い揺さぶりだ。 でも私にはゴクラクの言っていることに嘘はないという確信があった。 にもかかわらず、ゴクラクの短い説明を半分以上聞き流してしまった。 だって難しいんだもん。 【共鳴】を武器にする(あれ? 共振だったけ?)ということは分かった。 でも共鳴を具体的にどうするのかサッパリ分からない。 他には……そう、振り子がどうとか言ってた。 じゃあゴクラクの武装は振り子なのか。 振り子でできることなんて、「あなたはだんだん眠くな~る」の催眠術しか思いつかない。 つまりゴクラクの技は催眠術――いやいや共鳴はどこ行った。 どうしよう、もう一度説明を頼んでみようか。 聞かぬは一生の恥って言うし、清水研の神姫を相手に恥かいたって別になんとも思わないし。 よし、聞こう。 見下されるかもしれないけど、それならそれで早々にお帰り願えばいいじゃない。 さあ聞けセイブドマイスターホノカ。 素直な心でお願いするんだ。 「……で、どうして私にあんたの情報を?」 だめだった。 飛鳥型ホノカさんはちっぽけなプライドと引き換えに重要な情報を逃した。 「ほう、ご理解頂けなかったようだがご質問は無しか。さすがはセイブドマイスター殿、潔くて助かる」 しかも理解してないことがバレてた。 自分の顔がみるみる赤くなっていくのを感じた。 魔法少女になった時くらいの恥ずかしさと自殺願望を抱えきれず、機関砲を再度手に取り弾の限りぶっ放した。 部屋中に何度も炸裂音が反響し、備え付けの調度品が被弾した箇所からひしゃげていく。 ちゃぶ台の上にあった包の中身は一口サイズのヂェリ缶詰合せだったらしく、弾が当たってヂェリ缶が弾け飛んだ。 破片が部屋中に舞って、トリガーを引いても弾が出なくなった頃にはあらかたの物を壊し尽くしていた。 全弾避けきったゴクラクを除いて。 「錯乱されるな。涙が出ているぞセイブドマイスター殿」 「じゃかあしいっ! さっさと答えなさいよ、なんで私に能力ばらしたっ! ええ!? 私を嘲笑うためか! 小難しいこと言いやがってインテリぶりやがってえっ!」 「違う。我が戦闘スタイルを開示したのは、セイブドマイスター殿の信頼を得るためだ。我はセイブドマイスター殿を我が研究室の第一デスク長に――」 「出てけ! 二度と来んな! 次そのツラ見せたら額の角と尻の穴を連結しちゃるかんね!」 「やれやれ、曲がりなりにも『大魔法少女』と肩を並べる御身であろうに。まあよい、一度の謁見で心が掴めるとは思っていない。今日のところは挨拶にとどめておこう」 そう言うとゴクラクは穴が空いて歪んだ戸を強引に、しかし力を込めた感じもなく開けて外に出た。 「そうだ、もう一つ」 いかにも【今思い出したという演技をした風に】ゴクラクは足を止めてこちらを向いた。 「我が研究室の第六、第七デスクの者らが近いうちにセイブドマイスター殿を訪ねると言っていた。その時はよろしくご相手願いたい」 返事の代わりに機関砲を投げつけた。 ゴクラクはここに来た時のように瞬きの間にその場から姿を消し、今度はどこにも現れることはなかった。 ◆――――◆ 「『清水研究室 第六デスク長』クロカゲ」「並びに『第七デスク長』シロカゲ参上!」 今ほど不愉快な気分で茶室から帰ってきたのは初めてだった。 癒しを求めたはずの茶室で、なぜこんなにも嫌な思いをせにゃならんのか。 難しい説明を一方的に聞かされた混乱、悶絶したくなるほどの羞恥、戦力差を忘れさせるほどの殺意、それらの感覚が、ネットワークから帰って目を覚ますことで頭痛に変換されたようだった。 頭痛薬、そうでなければニトロヂェリーが欲しい。 今更になってゴクラクの手土産が惜しくなった。 確か冷蔵庫にはヂェリーがまだ残ってた。 でもクレイドルから動く気になれず、目覚めた時の体勢のまま窓のほうを見た。 「今日は貴様の命」「を頂戴しに参った!」 開け放たれた窓の縁に黒と白の小人が立っていた。 腕を組んで背中合わせに立ち、景観が荘厳なわけでも雷鳴が轟いているわけでもない外をバックに、謎めいた登場を演出している。 黒と紫の忍装束、青いオカッパが少々幼く見えるフブキ。 白と赤の忍装束、赤い長髪を後ろで一本にまとめたフブキ。 二人とも首元にスカーフを巻いていて、外から室内に入り込んでくる湿っぽい風に僅かに揺れている。 忍者のくせに忍ぶ努力すら見られない。 ところで忍者型といえば、最近は『和』の心を捨ててしまった弐式とかいう神姫がいるけど、そういった意味であの二人は古き良きを守る正統派と言えた。 初代フブキとミズキの純正装備を身につけている。 私は和風神姫には、型式を超えた切り離し難いつながりがあると考えている。 紅緒に始まり、飛鳥、フブキ&ミズキ、こひる、蓮華、他少数。 『和』というコンセプトが武装の幅を狭めてしまうきらいがあるものの、単純な性能では語れないひとつの信念と少数精鋭であるというシンパシーは、私たち和風神姫にとって捨てがたいものとなっている。と思う。 それに、忍者型には個人的な思い入れもある。 なにせ忍者型は――唐突に告白するが――私のご先祖様なのだ。 詳しく知っているわけではないが、忍者だった私はホノカゲという爆弾魔で、尋常ならざる理由あって、かの有名な『ドールマスター』に弱者を装い近づいたそうな。 戦闘スタイルは爆弾魔の名に違わぬ卑怯卑劣なもので、バトル開始前からステージ全域に遠隔操作型の爆弾を仕掛けておくというものだ。 バトルの混戦の最中に誰も気付かないうちに仕掛けておいた風を装って、これで何人もの神姫を屠った。 同様の手口で『ドールマスター』を破壊しようとした、が、あっけなく撃退される恥さらしだったという。 せめてもの救いは、そんなご先祖様の噛ませ犬的な姿がWikiに晒される前に、歴史がデータの海に溶けて消えた(ボツになったとも言う)ことだった。 こんな情けないご先祖様でも、私のベースになっていることは間違いない。 そういったわけで私は、忍者には一目置くようにしている。 困っている忍者がいたら積極的に助けようとも思う。 私にできることであれば、漫画を読むことと天秤にかけたうえでお願いをされたっていい。 しかし今日ばかりはタイミングが悪かった。 寝そべったまま手を伸ばしてセイブドマイスターを掴み、セイフティを解除、ハンドルを引いてチャンバーに弾を送り込み、床と肘で大きな図体を固定してファイア。 「「あびゃあっ!?」」 命中したような悲鳴をあげる忍者二人。 しかしちゃんと狙わなかったため、弾は二人の頭上を通り過ぎて窓の外へ消えていった。 舌打ちして、もう一度構えた。 次は当てる。 「お、おい待て! いき」「なり何をするんだ貴様!」 忍者は二人で一つの文をしゃべるという、とても面倒なことをしていた。 黒い方が半分まで喋り、白い方が残り半分の文を引き継いている。 私に向けて手を付き出した「待て」のポーズは二人一緒だ。 焦った表情も一緒。 その芸風は私を馬鹿にしているように思えてならなかった。 いや、絶対馬鹿にしてる。 さっきのゴクラクといい、あいつらといい、どこまでもふざけた連中だこと。 清水研究室、死すべし。 「「ひえええっ!!」」 今度はしっかり狙ったのだが、忍者二人はそれぞれ両側へ跳んで回避した。 ゴクラクのような余裕綽々の避け方ではない、それはどちらかというと逃げる動作だった。 清水研のデスク長だからって、全員がゴクラクやギンのようにずば抜けて強い神姫とは限らないらしい。 まあ、そんなことは私にとっちゃ関係のない話なわけで、まずは黒いほうを屠る。 「ま、待てセイブドマイスター! 分かった、我ら」「が悪かった! だからまず話をしようではないか!」 「あんたらと話すことなんてないわ」 砕けろCSC。 「うっひょお!? だから待てというに! このままリアル戦闘行」「為を続ければ警察沙汰になるぞ! それは本意ではあるまい!」 「む」 それもそうだ。 こんなところで死なれちゃったらこの家が家宅捜索されてしまう。 それはちょっとマズい。 でもあいつらは私の命を取りに来たとか言ってたし、正当防衛じゃなかろうか。 ならば何も問題ない。 「爆ぜろCSC」 黒い方に銃口を向け直すと、とうとう両手を上げた。 黒い方だけでなく遠く離れた白い方まで同じく両手を上げた。 「分かった降参だ! 降参、マジで参りまし」「た! だからその銃を下ろしてください!」 ◆――――◆ 「自分らだって本当はこんな悪役」「みたいなことやりたくないんスよ」 とっちらかったマスターの机の上に忍者二人を呼んで正座させた。 私は二人の前に仁王立ちして、自分はいったい何をやっているんだろうと疑問に思った。 忍者達は、聞いてもいないのに勝手に身の上話を始めた。 「それなのに室長のヤツ、勝手に自分らを第六、第七」「デスク長にしといてこき使うんスよ。酷くないスか」 「知らないわよ」 私のご先祖様もそうだけど、忍者型ってこんなに情けない神姫だったっけ。 忍者のみんながみんな、こうじゃないはずだけど。 きっとフブッホとミズキッチョムの呪いとかそんな理由なんだろう。 「それに自分ら仲良しじゃないスか。だからせめて一緒のデスクに」「してくれって頼んだのに聞く耳持たないんスもん、あの迷彩巨乳」 「プッ、迷彩巨乳ね」 「あれ、姉さん知って」「るんスか、自分らの室長」 ついさっき会ったばかり、とは言わないでおいたほうがいいような気がした。 この二人は迷彩巨乳(的確な呼び名だ)の動きを知らないみたいだし、変に話を持ち出してややこしくなるのは避けたい。 「まあ、ちょっとね」 「マジっスか、すげぇな姉さん。室長って神姫センターと」「か普通の場所じゃ絶対にお目にかかれないレア神姫スよ」 「なんで?」 「そりゃあ強す」「ぎるんスもん!」 二人の眼の輝きが増して、表情に自慢の色が濃く表れた。 なんだかんだ言って自慢の室長なんだろう。 「ここらの地域って実は結」「構スゴいんスよ。知ってます?」 「さあ」 「日本代表レベルの神姫が五人も集まってるんスよ。五人とも公式戦みたいな表には出」「ないだけでガチっスもん。海外の筋肉ムキムキMMSとか一捻りスよ。スゴくないスか」 私のような平凡神姫が日本の頂点と聞くと、まず頭に思い浮かぶのは現日本一のアルテミスだ。 アルテミスは動画でしか見たことないけど、そのバトルは私の理解を超えた異次元にあった。 もし勝負したら十秒以内に撃墜される自信がある。 あんなのが身近に五人もいるんだ、恐ろしい。 海外の、特にアメリカのMMSも動画で見たことがあった。 ごくまれに神姫センターでも外国人マスターがバトルさせている。 一応同じMMSということで同じ筐体を使えるのだけれど、当然ながら彼らは武装神姫ではない何かで、普通の神姫バトルのようにはいかない。 アメコミヒーローみたいな筋肉塊が腕力にものを言わせて、比較的小さな建造物くらいなら軽々と放り投げたかと思うと、他のところではSWATみたいな装備のイカついMMSがプロの市街戦を見せつけていたり、文化の違いを感じさせた。 戦場は女子供が立ち入っていい場所ではない、それが彼らの言い分だった。 「あのイカついMMSとは関わりたくないわね。私達と同じ規格で作られてるってことが信じられないわ」 「あんなモンスターは室長みたいな」「バケモノに任せとけばいいんスよ」 「尊敬してるわりに薄情ねあんたら。――ちょっと待って。日本代表レベルってもしかして迷彩巨乳のことを言ってる?」 「そう」「っス」 あっさり頷く忍者。 私は急に気が遠くなり立っていられなくなって、クレイドルに座り込んだ。 「ど、どうした」「んスか姉さん」 「なんでもない。ちょっとめまいがしただけ」 忍者二人が来る前の出来事が、まるで映画のテープをめちゃくちゃに繋ぎ変えて再生したように次々と思い返されていく。 武装神姫の頂点に立つレベルの神姫と茶室で二人っきりになった。 武装神姫の頂点に立つレベルの神姫から土産を出されたのに無視した。 武装神姫の頂点に立つレベルの神姫に向けて機関砲を撃ちまくった。 武装神姫の頂点に立つレベルの神姫の強さの秘密を聞かされた。 【次そのツラ見せたら額の角と尻の穴を連結しちゃるかんね!】 人間で言うならば、おでん屋台で隣に居合わせた方が天皇陛下とは知らずに馴れ馴れしく愚痴ったり肩を組んだりしてしまうような感じだと思う。 手が震えてきた。 CSCが勝手にオーバークロックを始めて、思考が暴走しかかっている。 頭の中を迷彩巨乳の存在感あふれる姿が、最近お会いしていない【あの人】の姿と交互に走馬灯の影絵のように駆け巡った。 どうでもいいけど「死の直前に走馬灯が見えた」って言い方をすると、人生の最後に見たものが風流な灯籠だった、って意味になっちゃうから注意してねフフフ……。 「姉さん落ち着いて。走馬灯」「のたとえは大袈裟すぎっスよ」 「な、なななんで私の考えてること、分か、わか」 「姉さんの顔に書いてあるんスもん。室長と会った時に何やらかしたか知ら」「んスけど、気にしすぎっスよ。いくら強くても所詮は迷彩巨乳なんスから」 「そ、そうよね。あんな胸を見せびらかすようなヤツにわ、私、なに動揺してんのかしら」 慎ましい自分の胸に手を当てて、ゆっくりと落ち着きを取り戻していった。 そう、バトルの強さに関係なく迷彩巨乳は迷惑な清水研のリーダーで、それ以上でもそれ以下でもない。 クールになれ『セイブドマイスター』。 強さのインフレが止まってよかったと考えればいいじゃないか。 世界にはもう迷彩巨乳を超える神姫は出てこないんだ。 15cm程度の死闘の天井が見えたことは喜ぶべきことよね。 「ふう。もう大丈夫。そうよ、みんな同じ規格で作られた神姫なのよ。強い神姫、弱い神姫、そんなのマスターの勝手。大切なのは自分が武装神姫であることに誇りを持つことよ」 「うっは。さすが姉さん」「言うことがハンパないス」 「まぁね。それで? この地域にいる残り四人の強い神姫って誰なの?」 「一人は姉さんがよく知って」「るっスよ。『大魔法少女』ス」 「あばばばば……」 「うわあ姉さん」「が泡ふいたー!」 『マッドサイエンキャット』-2/3 トップへ戻る?
https://w.atwiki.jp/battle_communication/
武装神姫 BATTLE COMMUNICATION@wikiへようこそ